受賞報告

第1回 土木賞

阪神高速道路 大和川線シールドトンネル工事

イメージ

竣工後のトンネル
所在地
大阪府堺市堺区遠里小野町~北区常磐町
施設管理者
阪神高速道路株式会社
設計者
日本シビックコンサルタント株式会社
株式会社オリエンタルコンサルタンツ
施工者
鹿島・飛島建設工事共同企業体
関係者
株式会社地域地盤環境研究所
山吉工業株式会社
計測技研株式会社
ジオスター株式会社
小西咲株式会社
カジマメカトロエンジニアリング株式会社
ケミカルグラウト株式会社
株式会社シンコー
施工者
鹿島・飛島建設⼯事共同企業体
着工年月
2008年2月2日
竣工年月
2019年3月31日

受賞理由

「大和川線シールドトンネル工事」は、南海電鉄高野線、JR阪和線のふたつの鉄道の他、上町活断層が横断する大和川の南岸沿いに大きく湾曲した住宅密集地の地下を、往復4kmの大断面(セグメント外径D=12.23m)・超近接(最小離隔1m未満:0.08D)かつ3次元的に曲線掘進するという既往事例の少ないきわめて特殊かつ過酷な条件下での施工が求められた。
このような極めて難しい条件下で、関係する各社相互の連携・協力のもと、施工されたものであり、特に以下の3点について高く評価された。

①全線曲線施工技術と超近接大断面トンネル長距離掘進施工技術
先行トンネルの高品質・高精度の構築が極めて重要であるが、それを実現させた最大の功績は真円度自動測定システムと緻密なセグメント組立であった。トンネル内空測定において、トンネル断面を360度測定できる回転式レーザー距離計を開発・適用し、測定の自動化と見える化により精度向上が実現。その他、掘進施工時の切羽土圧・裏込め注入圧および曲線施工における施工時荷重の影響などを常時監視、かつ地表面影響結果を加味して総合的に評価・フィードバックして施工。その結果、真円度は従来1/250であるのに対して先行トンネルでは1/1,000、後行トンネル1/2,000(真円度=変形量/トンネル外径)の高品質高精度が確保された。
②交差活断層への対応
上町断層に対しては、目標とする耐震性能を、構造物全体系が崩壊せず地震時の利用者に対する安全性の確保と定め、トンネル軸方向のセグメント構造変化点に変位吸収が可能な損傷制御型鋼製セグメントを開発適用した。
③市街地への対応
避難通路ボックスや滑り台等の安全設備をプレキャスト化し、シールド掘進との同時施工を実現して工期短縮を図るとともに、シールド掘削土を再利用することにより搬出作業低減と環境負荷の低減を実現した。以上の点などにより、シールド適用範囲の拡大、技術の向上がなされたことが、日建連表彰土木賞に値するものと認められた。

プロジェクト概要

阪神高速6号大和川線は、大阪都市再生環状道路延長約60kmのうち、大阪府堺市と大阪府松原市を東西に結ぶ9.7kmの高速道路の一部で、堺市の4号湾岸線と松原市の14号松原線に接続する。
  大和川線シールドトンネル工事は、この9.7kmの高速道路の一部で、施工では、東行・西行両トンネルを大断面(セグメント外径D=12.23m)・超近接(最小離隔1m未満:0.08D)の状況下で、往復延べ4kmの長距離掘進かつ全線での平面・縦断面曲線掘進、さらに営業中鉄道(2路線)や活断層(1カ所)との交差、河床下掘削(20m)掘進など過酷な施工条件の克服が求められた。

企画・設計・施工のポイント

大断面シールドトンネルの超近接・長距離掘進
大和川線は、ほとんどの区間がトンネル構造であり、当初は開削トンネルとして計画されたが、周辺環境や地上の重要構造物などを考慮して、できるだけ多くの区間にシールド工法を採用するよう計画変更した。ただし、都市計画幅は開削工法を計画した当時のまま据え置かれたため、本プロジェクトのシールドトンネルは、併走する上下線2本のトンネルの離隔が1mを切る、超近接施工が求められた。
例を見ない「大断面シールドトンネルの超近接・⾧距離掘進」にあたって、学識経験者も交えた独自の設計・検証を行いながら施工を進めるとともに、トンネル内空の計測・フィードバックを自動化する「真円度自動測定システム」の開発・導入により、⾼品質・⾼精度なトンネル構築を実現した。構造では、シールドトンネル路面下の余剰空間に避難通路や施設配線空間を配置する合理的構造、また活断層交差部には新たに開発した「損傷制御型鋼製セグメント」を導入している。施工では、道路構造部材のプレキャスト化による工程短縮、掘削発生土の再利用によって、周辺環境への影響を軽減した。
本プロジェクトは、計画段階で判断された計画変更に起因する過酷な施工条件を克服しつつ、現場条件・構造条件に応じて、安全・安⼼や周辺環境に配慮する合理的な設計・施工を追求するべく、多様な関係者が相互に協働した結果、⾼品質・⾼精度なトンネル構築を成し遂げた。

イメージ 工事概要
イメージ 施工箇所を鳥瞰する
イメージ トンネル断面
イメージ シールドトンネル構造イメージ

高品質・高精度なトンネル構築を実現する技術
12mの大断面シールドを開削トンネルで計画した幅に収めたため、その離隔が1m以下での⾧距離曲線掘進であり、既往事例のないきわめて特殊なシールドトンネルである。先行トンネルの高品質・高精度構築を目的に、シールド掘進完了後およびセグメント組み立て後にトンネル内空の測定・フィードバックを繰り返し、高精度なトンネル構築を実現した。先行トンネルへの併設影響は、シールド掘進過程の地山応力を考慮した2次元FEM逐次解析による新たな手法により評価。掘進施工時の切羽土圧・裏込め注入圧等を常に監視、かつ地表面影響結果を総合的に評価・フィードバックして高い真円精度を確保した。また、先行トンネル変状の自動測定を行い、シールドマシン接近から通過・安定までの変状をリアルタイムに監視、高品質・高精度なトンネル構築を実現した。

イメージ 工事中のトンネル

大断面シールドトンネルの耐震性向上技術
本トンネルの周辺地盤は硬質安定地盤であるが、大阪府を南北に走る上町断層が存在し、レベル2地震動を超える最大級シナリオ地震動*1(上町断層を震源とするシナリオ地震動)に対し、縦断方向耐震設計ではトンネル軸方向の圧縮力が卓越した。
この条件に対して、目標とする耐震性能を、構造物全体系が崩壊せず地震時の利用者に対する安全性の確保と定め、トンネル軸方向のセグメント*2構造変化点に変位吸収が可能なセグメントを開発・適用した。本構造は、最大級シナリオ地震動に対し、セグメントのリブを不可逆的に変形(座屈降伏)させることにより変位を吸収し、トンネル軸方向のひずみを許容値内に収め、一方で、セグメントに必要以上の変形を生じさせず損傷を制御する観点から所定の圧縮変形以上の変形に抵抗する軸力伝達部材を配置し、土砂流入に配慮したスキンプレート・カバープレートのスライド機構を有している。
*1 シナリオ地震動:地震危険度の高い活断層や沈み込み帯に起因して、発生する地震など想定できる地震のこと。
*2 セグメント:シールド工法において一次覆工として組み立てる鋼製または鉄筋コンクリート製の部材。

イメージ 損傷制御型鋼製セグメント

道路トンネル路下構造同時施工と環境負荷低減
本トンネルの避難形態は、道路面側部に配置するすべり台を使用し、道路面下の安全避難空間へとアクセスする形態である。トンネル内道路下空間には、避難通路空間および避難路アクセス空間を有する。トンネル路下空間構造はセグメントと同幅としたプレキャスト部材で構築しており、避難通路ボックスについては、切羽先端部にて、シールド掘進と同時に、セグメント1リング・通路1ボックスを組み立てる同時施工とし、全体工程の短縮を実現した。また、路下における不要な空間の埋め戻しにシールド掘削土を再利用した流動化処理土を地上発進基地にて製造し、坑内へ圧送(最大3.4km)する工法を採用。流動化処理土に、約40%のシールド掘削土を再利用した。

イメージ シールドイメージ
イメージ ボックスカルバート設置状況
イメージ 真円度自動計測システム
施工プロセスの特徴

建設コストの低減
一次覆工構造(セグメント)の耐火構造見直しによりトンネル外径を70mm縮小、セグメント種別変更に伴う工事費を15%削減した。

建設工事に伴う公害の防止、自然環境の保全
開削工法をシールドトンネル工法に変更し、公害発生を防止した。また、コンクリート打設工事をプレキャスト化、鋼製化し、型枠廃材や工事車両を削減した。

建設副産物の発生量削減
先のトンネル外径縮小による掘削土量削減と、掘削土再利用の流動化処理土製造打設により現場内利用にて場外搬出量を削減した。

構造物の耐久性、強度、美観、供用性の向上
大断面併設トンネル施工で、真円度精度向上を達成した。

安全・安心の向上
当地域に存在する上町断層に対し、最大級シナリオ地震動を想定したトンネル挙動に対応可能な覆工構造配置を考案・採用した。

限られた期間内での確実な施工
シールド掘進と並行したトンネル内部構築に加え、掘削土再利用の流動化処理土製造打設も同時施工し、工程短縮を実現した。

生産性向上(情報化施工・機械化・省人化)
セグメント真円度自動測定システムを本工事にて開発適用、測定結果の見える化、フィードバックをリアルタイムに実施した。

土木技術の発展・伝承
発注者、施工者共に30歳以下の若手社員を配置し、設計・施工の業務遂行において指導することによって伝承育成を実施した。