受賞報告

第1回 土木賞

湖陵多伎道路多伎PC上部工事特別賞

特別賞

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工事完成
所在地
島根県出雲市多伎町久村
施設管理者
国土交通省中国地方整備局松江国道事務所
施工者
株式会社IHI インフラ建設
関係者
株式会社北部組
オフィスケイワン株式会社
千代田測器株式会社
着工年月
2018年1月12日
竣工年月
2019年1月31日

受賞理由

島根県北部に位置する湖陵多伎道路は、緊急輸送道路の確保および第三次医療施設への速達性向上などを目的として整備されている山陰道の一部路線であり、本工事である多伎PC上部工事は、橋長76mのPC3径間連結コンポ橋である。
本工事は、生産性向上のためにCIMを積極的に取り入れ、それを複合現実(以下、MR)技術と連携させることにより、現場作業や出来形・品質管理作業の効率化や省人化に成功している。具体的には、Windowsで動作するグラフィックコンピュータを搭載したMRデバイスを使用して、現実空間にCIMモデルデータを投影させた。職員や技能労働者がこのMRデバイスを装着し、可視化して作業することにより、鉄筋組立や排水装置・検査路構築などにおいて、配筋作業や位置出し作業が効率化し、従来からのマーキング作業より約20%の作業時間短縮を実現させている。
また、自動追尾トータルステーション測量結果とCIMモデルをタブレット端末上に表示した。このことで、測量プリズム標点位置がリアルタイムで確認でき、現地計測作業をひとりで行うことが可能になるなど、人および作業時間を約60%縮減させている。さらに床版コンクリート打設を4DCIMモデルと連携させることにより、出来形および打重ね間隔(時間)のリアルタイム管理を実現させ、出来形精度向上や品質確保につなげている。
今回は、創設されて初めての土木賞であり、過去に事例がないような大規模事業や技術的難易度が高い事業が数多く応募されている。その中で本工事は、施工プロセスを支える「ものづくり」の原点である技能労働者作業の効率化や省人化、品質向上を実現させている。そのキラリと光る視点に基づく取組み成果は、特別賞の「施工プロセスを支えた活動、技術開発などに対する固有の課題への取組みで優れているプロジェクト・構造物」であり、日建連表彰土木賞(特別賞)に値するものと認められた。

プロジェクト概要

出雲市多伎町久村に位置する湖陵多伎道路の橋梁上部工事であり、橋長76m、全幅員20.1mのPC3径間連結コンポ橋である。本橋は、県道340号および後谷川と交差しており、施工においては、これらを利用する第三者の安全確保が要求された。また、高速道路のインターチェンジ付近に位置することから、開通に向け早期の完成が望まれた。そこで、工事を安全に効率よく進めるためにCIMを用い、施工のイメージを可視化しながら地元や関係機関,関係者間で内容を共有した。さらに、施工においてCIMをベースにICTなど最新の技術を連携させ、生産性の向上や品質管理の高度化に取り組んだ。

企画・設計・施工のポイント

工程短縮計画および安全性の確保
本工事ではCIM*1を採用した。CIMの作成には、周辺工事および橋体の構造物モデル・揚重機や架設機材の3Dモデルと周辺地形モデルを重ね合わせた。これを使い、橋体や付属物モデル干渉チェックを実施。設計照査時、図面間の不整合確認や設計の見直しなどによる時間的・経済的ロスの発生を防止した。また、このモデルに施工工程を付与して、4DCIMモデルとし、関係機関や工事関係者との打合せに使用した。これにより、作業内容を可視化し検討した結果、全体施工日数15%短縮を実現した。特に、県道上は夜間に規制を行いながら作業するため、工事関係者と架設をシミュレーションし内容を確認、作業者間の相互理解を高め、架設作業日数12% 短縮を実現した。さらに、地元や関係機関と円滑な合意形成を図るために、工事説明会にも使用した。また、揚重機スペースの確保、架設桁と車道の離隔確認にも活用し、事前に安全性も検討した。
*1 CIM:Construction Information Modeling,Management。3 次元モデルを中心に関係者間で情報共有することで一連の建設生産システムの効率化・高度化を図る取り組み。

イメージ 付属物の干渉チェック

CIMに時間軸を組み合わせた工程管理
日々の工程管理に対する進捗状況をグラフ化する機能を有したソフトを使用し、定期的にUAV(ドローン)を使用して工事区域全体を空撮した。それにより計画工程と実施工程のずれを把握し、進捗が遅れている項目は、作業員や機械などリソースを再配置して作業の進捗を管理した。その結果、全体施工日数、架設作業日数の短縮を実現した。

イメージ 4DCIMによる工程進捗管理 
イメージ 4DCIMによる工程進捗管理 

合理的な架設設備計画による工程短縮
本橋は全幅員が20.1mと広く、当初は上下線分割により、架設桁架設する計画であった。この計画では主桁の横取りや門形架設機の移動に時間を要し、また夜間規制する必要があることから、作業日数や時間を短縮する方法が求められた。そこで、主桁横取の作業時間を半分に短縮できるロングスパンの門形架設機を採用した。次径間への門形架設機移動時間短縮のため、当初のシングル架設機から補助架設桁によるダブル架設機に変更し、電動式の油圧リフターを使用し工程・作業時間短縮を実現した。

イメージ ロングスパン門形架設機 

複合現実技術と連携した施工技術
CIMモデルと複合現実(MR)技術を連携させることで、生産性向上に取り組んだ。MR技術の導入は、Windowsで動作するグラフィックコンピュータであるMRデバイスを使用した。今回、専用のソフトウェアを使いCIMのモデルデータを位置や縮尺を合わせて現実空間に投影し、配筋作業のサポートや遠隔で配筋3Dデータを共有した。現地で作業時間を計測した結果、従来と比べ配筋や橋梁付属物の位置出し作業の人数・作業時間を約20%縮減した。また、段階検査時に図面の配筋間隔や本数を可視化させ、MRデバイスを通して現地の状況をリアルタイムに工事事務所と共有し、監督職員、品質証明員による配筋検査時間の短縮ができた。

イメージ MR技術試行フロー
イメージ MR配筋作業
イメージ MR配筋遠隔管理

トータルステーション*1測量技術と連携した施工
トータルステーション(TS)測量技術の活用にあたって、TSとタブレット端末と連携させたシステムとした。このTSは、レーザー光でプリズムXYZ標点を自動で追尾しながらリアルタイムに座標を計測。このシステムを使用することで、現地で位置出しする作業をなくすことができ、作業員ひとりで計測作業が可能となった。従来のTS測量技術と比較した結果、計測作業を人数・作業時間について約60%縮減した。橋面の出来形を管理するために、出来形コンターソフトを使用、設計値からの誤差を色分け表示し、橋面出来形高さが規格値内であることが確認できた。
*1 トータルステーション:距離を測る光波測距儀と、角度を測るセオドライトとを組み合わせた測量機器。

イメージ TS測量施工技術試行フロー
イメージ TS測量技術システム概要
イメージ 床版打設後の出来形「高さ」コンター表示

トータルステーション測量技術と連携した品質管理技術
今回、4DCIMモデルとコンクリート打設時の測量データを連携させたシステムとした。打設時は作業員が混雑するため、直接プリズムの視準が困難であることから、ノンプリズムのTSを採用した。品質管理では,コンクリートの不具合は将来の耐久性に大きく影響する。橋面の出来形コンターソフトに床版の打重ね時間を追加表示した。打設中に、床版の出来形および打重ね間隔をリアルタイムに管理することにより、これらの線形座標点の基準高さ管理値の70%以内と仕上がりもよく、結果、床版の出来形精度が向上できた。

イメージ TS測量品質技術試行フロー
イメージ TS測量品質管理
イメージ 床版打設直後の出来形「高さ、打ち重ね時間」コンター表示
施工プロセスの特徴

CIM活用による工期短縮
橋体、揚重機や架設機材の3Dモデルと周辺地形モデルを組み合わせ、工程を付与した4DCIMを関係者との打合せに使用した。作業内容を可視化、施工順序、作業間の問題点を検討することで、全体施工日数を15%短縮し早期完成を実現した。

i-Constructionによる情報化施工
複合現実技術を導入したMRデバイスを使用し、配筋・付属物作業をサポートした結果、従来作業と比較して、人数・作業時間を20%縮減。さらに、段階検査時に図面の配筋間隔や本数を可視化、デバイスを通し現地と工事事務所をリアルタイムに共有し、監督職員、品質証明員による検査時間を短縮した。座標をリアルタイムに計測するTS測量システムを床版の型枠組み立て、出来形測定に使用。現地において測点位置出し作業をなくした結果、ひとりでの計測作業を可能とし、従来の計測と比較、人数・作業時間を約60%縮減した。

限定された期間内での確実な施工
架設作業に日々の進捗をCIMと連携した工程管理ソフトを活用し、計画と実施の工程を確認。進捗遅延項目は作業員や機械などリソースを再配して、第三者に対する架設期間の12%短縮を実現した。

構造物の性能・機能の向上(床版品質向上技術)
床版をノンプリズムで、直接計測できるTS測量システムを使用。打設中の床版出来形、打重ね時間を計測、CIM座標モデルと打設時データをリアルタイム連携した結果、出来形耐久性が向上した。

規制時間の短縮
当初の架設計画は、夜間の交通規制時間内では架設が困難であった。架設時間短縮のため、主桁横取り作業にロングスパン門形架設機やダブル架設機を使用、また次径間への移動時間短縮に電動リフターを使用した結果、日々予定通り規制を解放、社会的な影響を低減した。