令和の健人

新時代「令和」を担う技能者。
「令和の建人」は建設業のなかで重要な技能を誇り、その修練に努める次世代の人々を追う企画です。
多くの技能の中には受け継がれてきた人の想いが詰まっています。それらを掘り下げ、日々の仕事を記録すること。これらがきっと建設業にひとすじの光となり、新時代への道筋を照らすと信じて。

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第3回

競技の足元を支える! アスリート出身技能者

窪田利彰さん

日本体育施設株式会社

造園工
造園工とは、狭い意味では石や植物、水の流れなどを効果的に配置して美しい庭園をつくる職業。広い意味では、公園や緑地、グラウンドなどの運動場を含めた公共的な空間を計画・設計・施工する仕事で、都市計画や環境デザインにも関係するスケールの大きな分野になりつつあります。

農業高校出身、箱根駅伝にあこがれて

造園工・窪田利彰さんは、1982年鹿児島県出身。 地元の農業高校では陸上部(長距離走)に所属し、その後は箱根駅伝にあこがれて伝統校・東京農業大学に進学。箱根駅伝出場はできなかったが、3年次から転向した競歩で日本陸上競技選手権大会に出場するなど活躍した。

大学卒業に際して、スポーツ関係の仕事に就くことを漠然とイメージしていたとき、スポーツの記録に挑戦するテレビ番組を見ていたら、その舞台を整えていたのが日本体育施設株式会社だった。
「陸上選手だったのに、競技場をつくる会社があるっていうこと自体それまで知らなかったんです(笑)。それで興味を持って調べてみたら、たまたま大学に求人広告が来ていて、応募した…というのがきっかけです」

日本体育施設株式会社は、陸上競技場やテニスコート、野球・サッカーなど球技場の天然芝・人工芝といったスポーツ施設やレクリエーション施設の施工を専門的に手掛ける建設会社だ。窪田さんは、大学卒業後この会社に就職。学校のグラウンドや公園・緑地の整備なども担当してきた。 「陸上をやっていたので、『(陸上の)トラックをつくる仕事をやりたいな』と、ホントにそれくらいの気持ちで入ったんですけど、やっていくうちにいろいろとわかってきて、今は楽しい仕事だと思っています。もちろんつらいこともありましたけどね」

イメージ入社以来、施工管理一筋。「天然芝の管理業務に異動する話もあったんですが、やはり陸上競技場をイチから経験したくて」

本番会場と寸分たがわぬ練習場をつくる

窪田さんが現在従事している現場は、茨城県境町にある。同町はアルゼンチンと交流が深く、2020年東京五輪ではアルゼンチン代表選手団の事前キャンプ地となっている。窪田さんが担当中のテニスコートは、東京五輪でテニス競技会場となる有明コロシアムのメインコートと同じ仕様で設計されており、本番同様の環境で練習できるようになっている。特に重要なのはサーフェス(表面)の材質で、ボールの弾み方や速度に大きく影響するため、本会場と同じ仕様のコートで調整できるのは強みとなる。

「グラウンドを支持する基盤を整正し、その上に道路と同じようなアスファルトを敷くところから当社でやっています。サーフェスは有明コロシアムと同じで、全米オープンテニスの会場でも使われている最高級品。今はコートのデリケートな部分の施工中なので、他の外構などの工事をストップしてもらっている状況です」

テニスコートの施工でもっとも気を付けている点は?
「やはり平坦性、真っ平らでなければならない、という点です。ハードコートなので、微妙に勾配をつけて表面排水できるようにしてあるんですが、やはり水は正直なので、へこんでいるところがあったらそこに水たまりができてしまう。そうならないように、塗り重ねるたびにチェックしています。自分が担当したなかでも、最高と言ってもいい精度の施設になると思いますよ」

イメージ屋内2面、屋外2面、合計4面のコートを施工中。
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イメージ材料の調合に立ち会う。サーフェスの品質管理は重要な役割の一つ。

「ゼロからつくれる」という魅力

これまで手掛けたなかで印象に残っている現場は?
「まったくの偶然なんですが、母校(東京農業大学)の陸上競技場の改修工事を担当したことですかね。私が学生の頃は土のグラウンドで、冬になると霜が溶けたりして、泥みたいになっていたんですが、それを全天候型に改修しました。自分が走っていたところなので、感慨深かったです」

この仕事の最大の魅力は?
「陸上選手だったので、その視点で、アスリートにとって使いやすいものをゼロからつくれる、しかもそれが形になって残るということですね。特にわれわれの仕事は公園とかグラウンドとか、公共性の高いものが多いので、たくさんの人に使ってもらえるという点ではやりがいもあると思います」

陸上競技場には第1種から第4種までの区分があり、オリンピックや世界陸上といった大きな大会を開催できる第1種公認競技場や国際陸連の認証施設には、収容人員や施設の規模など大きな違いがある。
「東京五輪の陸上競技で審判等を行う競技役員を務めることになり、一つの夢がかないました。もう一つ、いつか第1種の競技場を自分の施工管理で完成させてみたいです」

イメージ同じ境町内で整備中のグランドホッケー場の現場にて。
こちらもアルゼンチン代表のための練習施設だ。
イメージ平坦さに重要なアスファルト舗装の定規の高さをチェック。