令和の健人

新時代「令和」を担う技能者。
「令和の建人」は建設業のなかで重要な技能を誇り、その修練に努める次世代の人々を追う企画です。
多くの技能の中には受け継がれてきた人の想いが詰まっています。それらを掘り下げ、日々の仕事を記録すること。これらがきっと建設業にひとすじの光となり、新時代への道筋を照らすと信じて。

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第9回

“巨大マシン”で掘り進む 首都の地下空間

工藤修也さん

シールド工
シールド工法は、「シールドマシン」と呼ばれる円筒形の掘削機で、地上に影響を及ぼすことなく地中を掘り進め、トンネルを構築する方法です。マシン前方の硬い刃がたくさん付いた「カッターヘッド」が回転し、固い岩盤を削ってトンネルを掘り進めます。
シールド工は、掘進開始から掘進中、そして完了後の片付けまで、シールドマシンに関するほぼすべての作業に関わります。マシンの操作、掘った部分の崩壊を防ぐ「セグメント」と呼ばれるブロック状の内壁の構築、掘った土の搬出、そして地中障害が発生した際のトラブル対応など内容は様々。そのため、シールドマシンの性質に精通していることや、地上で掘進を管理するスタッフとの綿密な連携、不測の事態への対応力が求められます。

「モノづくりに関わりたい」が原点

株式会社定義工業(さだよしこうぎょう)のシールド工・工藤修也(しゅうや)さんは、1982年北海道生まれ。地元の普通高校を卒業後、同郷で知り合いだった定義工業の社長に誘われて上京し、入社した。

「漠然と、自動車とか機械系で、ものづくりに関する仕事をやれたら…と思っていました。定義工業の社長に『トンネルをつくる仕事だ』とトンネル工事の写真を見せてもらい、『大都会の東京で、どうやってトンネルをつくっているのかな』と興味を持ったのが入社のきっかけでした。東京に出ることに迷いはなかったです」

建設関係の仕事を目指していたわけでもなく、予備知識も何もない、ゼロからのスタート。先輩たちの基礎からの指導を受けながら、「この仕事でやっていける」と思えたのは「3年目くらい」だという。

イメージ「先輩の手を借りずに、自分だけでいろいろな判断ができるようになったのは
10年目くらいですかね。今年で20年目ですけど、まだまだ勉強中です」
イメージシールドマシンの後方にある「後続台車」。
掘進に合わせて移動できるようになっており、トンネル構築のために必要な様々な資材・設備が積まれている。

シールド工事に関するほとんどすべてを手掛ける

シールド工の作業内容は幅広い。シールドマシンの掘進制御操作(オペレーション)、掘削面の状況把握、掘削土の後方への運搬・場外への搬出、セグメントによる内壁構築、裏込め剤の製造・注入。シールドマシンが一定距離掘進した後は、掘削土運搬用のベルトコンベヤや坑内移動用のレール、給水、排水、薬液剤用の配管などをそれぞれ継ぎ足して延ばすなど、効率的な作業環境を維持しなければならない。

「マシン自体の組立・解体はメーカーさんがやりますが、それ以外の掘進が始まって到達し、片付けるまでのほとんど全部に関わります。自分は一通りの作業ができます。今はトンネル坑内切羽部を見て、大変そうなところを手伝ったり、地上と地下がうまく連携できるように調整したりしています」

イメージ後方から続々と送り込まれる「セグメント」。
掘進しながら同時に内壁を構築していけるのが「シールド工法」最大のメリットだ。

社会を支える仕事

この東京外環プロジェクトでは、東名自動車道と関越自動車道とをつなぐ全長16kmの外環本線トンネルを整備。そのうちの東京都世田谷区大蔵から武蔵野市吉祥寺南町までの約9kmがこの現場の担当工区だ。国内最大級の大断面が目を引く。
「今までに、首都高の中央環状品川線とか営団地下鉄(当時)半蔵門線、副都心線…。東京の人なら誰でも知っていて使っている道路や地下鉄のトンネルの工事に関わってきました。自分が担当したところを通る時に『あ、これ俺がつくったんだな』って思いますし、社会に貢献しているな、という感じがします」

工藤さんはこれまで、道路や鉄道だけでなく、下水道や共同溝などのトンネルも掘ってきた。
「そういう(下水道や共同溝などの)トンネルは、完成後は見に行けないですけど、それでもちゃんと機能してみんなの生活を支えているんだと思うと、やりがいがありますね」

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イメージ「エレクター」と呼ばれる機械がセグメントをしっかりと掴み(上)、トンネルの内壁を組み立てていく(下)。
現代のシールド工法は高度にシステム化されている。

何がひそんでいるかわからない「地中の世界」

これから掘り進んでいく地盤の状態については、もちろん事前にボーリング調査などで地質を調べているが、そこは目に見えない地下世界のこと、掘削前に把握しきれない事態も起こることがある。比較的地表に近い部分だと、思わぬ「地中障害」に行き当たってしまうことも。
「このトンネルは大深度なので、想定外のモノが埋まっているなんてことはまずありませんが、何かの杭や矢板が埋まっている場合には、掘進を止めなきゃならないこともありました」

シールドマシンの刃は土や岩盤を削って穴を掘ることを想定して作られているため、木の杭や金属の塊などが進路上にあるとそれ以上進めなくなり、最悪の場合地上から別の穴を掘ってこれらの障害物を取り除かなければならなくなる。

「前に一度だけ経験したんですが、地中にメタンガスのガスだまりがあったんです。マシンの中にもガス漏れしてきて酸欠になる恐れがあったので、地上からそこに管を差し込んでガスを抜いたりして、マシン内にガスが入らないようにしました。大変でしたね」

イメージベルトコンベヤを延伸するための作業。
イメージセグメントとマシンテール部の間に「テールシール(パテグリス)」を注入する施設。
これらも掘進のたびに移設する必要がある。

「準備と撤収が一番大変」

シールド工で一番苦労するところは?
「やっぱり準備作業と撤去作業ですかね。立坑が完成してシールドマシンもできあがって、さぁこれから掘進しますっていう時にいろいろな設備が揃ってないといけない。そこは元請会社とも相談しながら、慎重に進めることになります」

本掘進中はやることが多いが、実はほとんど同じ作業の繰り返し。それよりも、トンネルごとに径もシステムも異なる「オーダーメイド」の後続台車や設備を着実に組み上げて、スムーズに掘進できるように段取りしなければならない点が大変だという。
「当面の目標は、このトンネルを事故なく高品質で掘り進めること。そして、この『シールド工事』という仕事がある限り、世の中の役に立つトンネルをつくり続けたい、と思っています」

イメージ後方から見たシールドマシン。手前にあるレールはセグメントなどを運ぶ台車のために設置されており、
これも掘進に合わせて延ばしていく。
イメージ現在は奥様と2人暮らし。なかなか仕事内容を想像しづらい職場だが、
「完成したトンネルや現場の写真を見てもらっているので、
『大変な仕事だ』っていうのは何となく伝わっているのかな」