伊藤奈穂美さん
溶接工(鋼橋製作)
鋼板やH形鋼など鋼製の素材を溶接作業で組み立てて、部材をつくります。建築分野でも多く用いられますが、この工場では橋桁などに使う鋼構造物の部材を製作しており、一つひとつがかなり大きなサイズとなります。
溶接は、高電流・超高温で金属を溶かして部材同士を接合させる特殊な技能で、専門の資格が必要なほか、同じ箇所を同じ姿勢で何度も繰り返し作業する根気と集中力も求められます。
溶接工・伊藤奈穂美(いとう・なおみ)さんは、1996年に千葉県君津市で生まれた。同市内の県立高校普通科を卒業後、宮地エンジニアリング(株)の千葉工場に就職し、今年で6年目になる。
この仕事を目指したきっかけを聞くと、
「高校生の頃、夏休みに学校で工業系の技術講習会をやっていたんです」
いろいろな職業を体験し、卒業後の進路の一助となるように、という趣旨で開催された講習会では、熟練の技能者が学校に来て、バックホウやフォークリフトの操縦、そしてガス溶接・溶断などを教えてくれたという。
「その時はまだ卒業後の進路を決めていなかったんですが、いろいろとやってみたなかで、溶接が『これ、楽しいな』と。そして『仕事としてアリかもな』と思いました。体も動かせますし」
一口に「溶接」といっても、その方法は様々。
「一番よく使うのは、『炭酸ガスアーク溶接』。工場での溶接のほとんどはこれでやっています」
束ねたコイルを溶接機にセットしスイッチを入れると、溶接ワイヤが一定速度で自動供給されるので、これを溶加材(溶かして使用する接着剤)として使用する。また溶接部の酸化を防ぐため、空気を遮断するシールドガスには炭酸ガスを用いる。接合したい金属と溶接ワイヤを通電させ、その間に発生させた「アーク」と呼ばれる高温の火花でワイヤを溶かしながら、金属と金属を接合する工法が「炭酸ガスアーク溶接」である。能率的で広範囲を溶接できるため、幅広い分野で用いられているポピュラーな溶接法だ。
溶接自体の操作は比較的簡単だが、
「溶接ワイヤのコイルを作業する場所まで自分で運ぶんですが、これがけっこう重くて大変です」
「次に使うことが多いのが『被覆アーク溶接』です。右手に溶接棒を持って、溶かしながら溶接していきます。棒がだんだん短くなっていくので、ちょっと操作が難しいです」
別名「手溶接」。シンプルな設備で作業できるため、仮付けや補修など狭い範囲の溶接に向いている。
この工場で作っているのは「鋼橋部材」。
その名のとおり、橋。つまり土木分野で用いられる部材である。
「技術講習会で『溶接って面白そうだな』とは思いましたけど、溶接で何をつくっているのかは全然知りませんでした。ここに工場見学に来た時は、部材が大きくて驚きましたね」
この仕事をやるようになってから、気になることがある。
「鋼製の橋があったら、つい見ちゃいますね。ここの溶接、上手いなぁとか」
現在は鉄道の橋梁に使われる部材を製作中。JR発注の作業では、技能士の技量を測るための試験も行われるそうだ。 「ただでさえ難しい手棒(被覆アーク)溶接、しかも普段使わないし…。それをみんなが見ている前で行うので、緊張しました。なんとか合格はしましたけど」
入社6年目、手応えを感じる部分もあるのでは?
「大体一通りのことはできるようになったんですけど、周りの先輩たちに比べたらまだまだです。先輩が溶接したビード(溶接材が冷えて固まったもの)はきれいだし、欠陥もほとんど出ない。早く先輩たちに追いつきたいです」