市川竜成さん
土工(多能工)
建設会社の「施工管理者」とは、作業そのものはもちろん、安全面や工程、コストなどにも気を配り、工事がスムーズに進められるように「管理」する仕事です(たいていは一つの現場に複数人いて、業務を分担しています)。実際の現場では作業を監督する立場なので、原則として自分自身が作業に参加することはありません。
しかし、「管理者」として工事の手順や道具・機械の用途、どのような作業にどれくらいの人数や時間を要するのかなどを知る必要があり、そのため最初は様々な作業を自ら経験するケースもあります。
今回の技能者は、施工管理者として建設会社に入社した新人で、現場の基礎を学ぶために現在は土工事の各種作業に従事している、いわば暫定的な土工です。
市川竜成(りゅうせい)さんは、東京都出身の19歳。2020年3月に工業高校を卒業後、薩摩建設㈱に入社した。同社には「施工管理」と「技能労働者」の2つの採用枠があり(2019年度採用時)、基本的には入社時の本人の希望に沿って決められる。市川さんは施工管理として採用された。
工業高校に進学したきっかけは?
「小さい頃から機械が好きで、何か道具を使ってものを作ることに憧れていました。工業高校にもいろいろな学科があったんですが、機械を扱える機械科をすぐ選びました。父が、雨水の侵入や漏水などから建物を守る『シーリング』という防水に関わる仕事をしているので、その影響も多少はありますね」
工業高校の機械科では、旋盤や材料加工などの技術を習得。その一方で、設計や製図など図面に関することも学んだ。 「建設会社に入ったのは、学校に募集が来ていたからというのもありますが、何もない平地に建物が建つということはすごいことだなと思って、自分も関わってみたいと思ったんです」
目下、市川さんが取り組んでいるのは建築現場の「土工事」。ビルの地下部分など、地表より低い部分に構造物をつくるための作業だ。具体的には、掘削と掘った土の運搬、周囲の土留め壁構築などを行う。
「本来、入社して最初の2週間ほどは研修期間だったんですが、ちょうど緊急事態宣言が出ていた時期で自宅待機になりました。現場に出るようになったのは5月の連休明けくらいからですね」
新人には「複数の現場でいろいろな工事を学ぶよりは、一つの現場に常駐して作業の流れを覚えさせる」というのが会社の方針で、5月に着工したばかりの大規模なビル建築現場に配属。経験豊富な先輩から指導を受けながら、土工事を経験した。
初めて現場に行った時の印象は?
「最初は右も左もわからないので、『とにかく怪我をしないように気を付けろ』と言われました。いきなりこんな大きな現場ですごいな、と思いました。重機の数も種類も多くて圧倒されましたね」
同現場の元請・㈱熊谷組の日野原麟太朗さんは、約10カ月職場を共にした立場から、市川さんを評してくれた。
「もちろん学校を出たばかりなのでわからないのは当たり前。でも彼はわからないなりに一生懸命やっていたと思いますよ。〝一年生〟のがむしゃらさで仕事に取り組んでいましたね」
最初の現場で学んだことを生かし、次に配属された㈱鍜治田工務店の現場でも土工事を担当中。
「土留め壁の板を切って運んだり、車両の誘導をやったり…。前の現場で経験した作業は勝手がわかるので、スムーズにできたと思います」
いずれは自身が作業を監督する側になるため、今のうちからそのことを意識しながら仕事をしているという。
でも、施工管理者になったら重機を動かせないのでは?
「そうですね…。でもこの業界にいる以上は資格を持っておいた方がいいと思うし、今自分が教わっている先輩の伊達さんも、重機オペレータが足りない時には自ら操縦もしているので、私も免許は取りたいですね」
薩摩建設の社内では、施工管理者が重機のオペレータも務めたという前例はないそうだが、そこは機械好きとして、初のチャレンジになるのかも知れない。
土工事をやっていて大変なところは?
「相手が『土』なので、雨が降ると現場全体がぬかるんでしまうところです。地面が軟らかくなって、足が抜けなくなってしまったこともあります」
この4月には同じ高校の後輩が入社、市川さん自身が教える場面も出てくるに違いない。
未来へ向けて歩を進める市川さんに、この業界を目指す次世代へのエールをもらった。
「自分ができることはわずかでも、大きな建物を建てることに携われるのはやりがいがあります。もちろん怒られることもあるけれど、今は先輩たちも丁寧に教えてくれるので、くじけずに挑んでほしいですね」
※ケレン:付着した泥やモルタルかすなどを削って落とすこと。