山之内達郎さん
ICTエンジニア
ICTとは「Information and Communication Technology」の略で、一般に「情報通信技術」と訳されます。インターネットなどの通信技術を使ってデジタルデータをやり取りする技術を指します。
ドローンや3Dレーザースキャナーを使って現場を測量し、そのデータと図面を組み合わせることで、現場の地形や構造物を3次元にモデリングします。その3次元モデルは、実際に施工する時の基準として、VR(仮想現実)空間内での確認・提案用として、また施工完了後の検査でも用いられるなど、工事の初期から終盤まで幅広く役立てられます。
ドローンやレーザースキャナーを使うと、従来の二人一組で何日もかけて行っていた測量とは比較にならないほど短時間で正確に計測でき、省力化や生産性向上などに効果的です。
測量したデータと図面の数値を関連付けて3次元のモデルとして表示させるには、PCのノウハウはもちろん、細かいデータを数多く打ち込むなどの根気のいる作業を伴いますが、いったんデータを作成すれば、様々な用途に応用できるため、アイデア次第で建設工事を大きく変革できる仕事です。
山之内達郎さんは、1990年に愛媛県で生まれ、広島の大学に入学した。大学では教育学部で、「技術・情報教育学専修」(情報処理、メカトロニクスなどを扱う)というコースで学んでいたが…。
「いろいろあって、中退してしまいました。そのあとは飲食業や清掃業などを転々としていましたが、2年前に今働いている会社の求人情報を見て、『経験不問』と書いてあったので、応募したら採用されたんです」
山之内さんが勤務するシンクコンストラクション㈱は、広島県を拠点として事業を展開する総合建設会社だ。
「父が建築の会社で施工管理の仕事をしているので、少しだけ縁を感じた、というのも応募のきっかけです。でも、父から仕事のことを聞いたことはないし、建設会社に入ってどんな仕事をするのか、基礎的なことも何もわからない状態でした」
同社では、数年前から施工現場へのICTの導入を考えていたが、なかなか進まない状況だったという。そのことが山之内さんの進む道を大きく変えることになる。
そもそも山之内さんは、最初からICT担当として採用されたのだろうか?
「いえ、求人は『施工管理』としての募集で、僕もそのつもりで入社しました。でも、会社ではICTの部門を立ち上げたものの担当者が1人だけで、ICT関連の業務になかなか専念できない状態だったので、僕が新たに配属された、という感じですね」
山之内さんの入社以前より、同社ではドローン測量を実施しており、ICT活用への土壌は整備されつつあった。
ICT推進を担うこととなった山之内さんは、社内に蓄積されつつあったノウハウを活用しながら、わずか1年足らずの間に、工事で使用する2次元の図面から3次元設計データへの変換や、3次元点群データの活用法などを独学で習得。就職時に思い描いていた施工管理という姿とは別の形で建設工事に関わっていくことになる。
大学で「技術・情報教育学専修」だったことが役に立ったのだろうか?
「いや、そんなこともないんですが…。多少はパソコンに慣れていたという程度で、ほぼゼロからのスタートですね」
まったくの未経験からの入社ということで、苦労も多かったのでは?
「現場の重機オペレーターの方と話す機会が多いのですが、いわゆる現場の人だけで通じるような専門用語がバンバン出てきました(笑)。こちらも当然わかっていると思われていたんでしょうね。最初のうちは未知の言語で話しているような感覚でした」
山之内さんが現在担当している現場は、“平成30年7月豪雨”で被災した黒瀬川(広島県東広島市)の浚渫工事。上流から流入した大量の土砂が河川敷に堆積しており、これを所定の高さまで削り取って元の姿に復旧する工事だ。
「河川の浚渫工事の場合は、測量・設計・施工、そしてその後の検査まで測量データを使うので、最初から最後までずっと関わり続けなければならないんです」
施工範囲はかなり広く、ここをドローンやレーザースキャナーで測量できたことで相当な省力化が図られたはずだ。
建設現場はICTで確実に効率化されているのか、現状を伺った。
「今は3次元化した完成形をVRで発注者さんに見ていただいたり、検査の際に実際の地形と図面の寸法との違いが一目でわかったり、といった使い方が普及してきていますが、まだまだ『当たり前』の技術ではありません。工事の時に『使いたい』と提案しても、コストが高すぎて認められないこともあります」
山之内さんが未経験からこの世界に飛び込み、短期間でマスターしたこの仕事。あえて後進に薦めるとしたら、どのようなところがアピールポイントだろうか?
「やはり将来性ですね。とにかくいろいろなことに活用できるので、これからニーズが広がっていく仕事です。特に小さい頃から身近にコンピュータがある若い世代にはとっつきやすいんじゃないでしょうか」