令和の健人

新時代「令和」を担う技能者。
「令和の建人」は建設業のなかで重要な技能を誇り、その修練に努める次世代の人々を追う企画です。
多くの技能の中には受け継がれてきた人の想いが詰まっています。それらを掘り下げ、日々の仕事を記録すること。これらがきっと建設業にひとすじの光となり、新時代への道筋を照らすと信じて。
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第17回

そのデータに、無限の可能性を見出す

山之内達郎さん

ICTエンジニア
ICTとは「Information and Communication Technology」の略で、一般に「情報通信技術」と訳されます。インターネットなどの通信技術を使ってデジタルデータをやり取りする技術を指します。
ドローンや3Dレーザースキャナーを使って現場を測量し、そのデータと図面を組み合わせることで、現場の地形や構造物を3次元にモデリングします。その3次元モデルは、実際に施工する時の基準として、VR(仮想現実)空間内での確認・提案用として、また施工完了後の検査でも用いられるなど、工事の初期から終盤まで幅広く役立てられます。
ドローンやレーザースキャナーを使うと、従来の二人一組で何日もかけて行っていた測量とは比較にならないほど短時間で正確に計測でき、省力化や生産性向上などに効果的です。
測量したデータと図面の数値を関連付けて3次元のモデルとして表示させるには、PCのノウハウはもちろん、細かいデータを数多く打ち込むなどの根気のいる作業を伴いますが、いったんデータを作成すれば、様々な用途に応用できるため、アイデア次第で建設工事を大きく変革できる仕事です。

愛媛県出身、異色の経緯で建設会社へ

山之内達郎さんは、1990年に愛媛県で生まれ、広島の大学に入学した。大学では教育学部で、「技術・情報教育学専修」(情報処理、メカトロニクスなどを扱う)というコースで学んでいたが…。
「いろいろあって、中退してしまいました。そのあとは飲食業や清掃業などを転々としていましたが、2年前に今働いている会社の求人情報を見て、『経験不問』と書いてあったので、応募したら採用されたんです」

山之内さんが勤務するシンクコンストラクション㈱は、広島県を拠点として事業を展開する総合建設会社だ。
「父が建築の会社で施工管理の仕事をしているので、少しだけ縁を感じた、というのも応募のきっかけです。でも、父から仕事のことを聞いたことはないし、建設会社に入ってどんな仕事をするのか、基礎的なことも何もわからない状態でした」

同社では、数年前から施工現場へのICTの導入を考えていたが、なかなか進まない状況だったという。そのことが山之内さんの進む道を大きく変えることになる。

イメージ未経験で建設業界に飛び込んだ山之内さん。
イメージ正路(しょうじ)取締役(写真左)、DX推進課の山中課長(写真右)と。

わずか1年で様々な技術を習得、社内のICT化を推進

そもそも山之内さんは、最初からICT担当として採用されたのだろうか?
「いえ、求人は『施工管理』としての募集で、僕もそのつもりで入社しました。でも、会社ではICTの部門を立ち上げたものの担当者が1人だけで、ICT関連の業務になかなか専念できない状態だったので、僕が新たに配属された、という感じですね」

山之内さんの入社以前より、同社ではドローン測量を実施しており、ICT活用への土壌は整備されつつあった。
ICT推進を担うこととなった山之内さんは、社内に蓄積されつつあったノウハウを活用しながら、わずか1年足らずの間に、工事で使用する2次元の図面から3次元設計データへの変換や、3次元点群データの活用法などを独学で習得。就職時に思い描いていた施工管理という姿とは別の形で建設工事に関わっていくことになる。

大学で「技術・情報教育学専修」だったことが役に立ったのだろうか?
「いや、そんなこともないんですが…。多少はパソコンに慣れていたという程度で、ほぼゼロからのスタートですね」

まったくの未経験からの入社ということで、苦労も多かったのでは?
「現場の重機オペレーターの方と話す機会が多いのですが、いわゆる現場の人だけで通じるような専門用語がバンバン出てきました(笑)。こちらも当然わかっていると思われていたんでしょうね。最初のうちは未知の言語で話しているような感覚でした」

イメージ山之内さんが作成したデータに基づいて重機を操作するため、オペレーターとの意思疎通も重要だ。
イメージ重機に取り付けられたアンテナ。このアンテナでGPSとやりとりをして位置情報を取得する。
イメージ操縦席の横に専用モニターが設置されており、測量データに基づいて、必要な高さ以上は掘削できないようになっている。

豪雨災害からの復旧工事

山之内さんが現在担当している現場は、“平成30年7月豪雨”で被災した黒瀬川(広島県東広島市)の浚渫工事。上流から流入した大量の土砂が河川敷に堆積しており、これを所定の高さまで削り取って元の姿に復旧する工事だ。
「河川の浚渫工事の場合は、測量・設計・施工、そしてその後の検査まで測量データを使うので、最初から最後までずっと関わり続けなければならないんです」

施工範囲はかなり広く、ここをドローンやレーザースキャナーで測量できたことで相当な省力化が図られたはずだ。

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イメージICT建機による施工の様子。
従来の方法では、どこまで掘削したかを地上で計測する人員も必要で、
重機と接触する危険性を伴うなど、安全面での課題もあった。
イメージ3Dレーザースキャナーで現場の地形を計測する。
「大部分はパソコンに向かっている仕事ですが、
ドローンやレーザースキャナーの測量は現場に出向いて自分でやっています」
イメージ浚渫工事を行っている黒瀬川の現場を上空から見る。
施工範囲は写真外にまで及んでおり、かなりの広さだ。
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現場の空撮写真と、これを3次元に起こしたデータの比較。
左が実際にドローンで掲載したもので、右が国土地理院のデータに着色したもの。
(2点の提供:シンクコンストラクション㈱)

ICTを当たり前の技術に

建設現場はICTで確実に効率化されているのか、現状を伺った。
「今は3次元化した完成形をVRで発注者さんに見ていただいたり、検査の際に実際の地形と図面の寸法との違いが一目でわかったり、といった使い方が普及してきていますが、まだまだ『当たり前』の技術ではありません。工事の時に『使いたい』と提案しても、コストが高すぎて認められないこともあります」

山之内さんが未経験からこの世界に飛び込み、短期間でマスターしたこの仕事。あえて後進に薦めるとしたら、どのようなところがアピールポイントだろうか?
「やはり将来性ですね。とにかくいろいろなことに活用できるので、これからニーズが広がっていく仕事です。特に小さい頃から身近にコンピュータがある若い世代にはとっつきやすいんじゃないでしょうか」

イメージ3Dで構築したVR空間。専用のゴーグルを使えば、この空間内に入り込んで自由に周囲を見渡すこともできる。
イメージ写真中央、重機に刻まれた「intelligent MACHINE CONTROL」のロゴは、ICT対応建機の証だ。