日建連表彰 BCS賞とは

「BCS賞」は、「優秀な建築物を作り出すためには、デザインだけでなく施工技術も重要であり、建築主、設計者、施工者の三者による理解と協力が必要である」という建築業協会初代理事長竹中藤右衛門の発意により昭和35年(1960年)に創設されました。以後、わが国の良好な建築資産の創出を図り、文化の進展と地球環境保全に寄与することを目的に、毎年、国内の優秀な建築作品を表彰してきました。
「BCS」の呼称は、建築業協会(Building Contractors Society)に由来しています。また、2011年の建築業協会を含む3団体の合併に伴い、第52回からは日本建設業連合会が表彰活動を引き継いでいます。
2019年、日本建設業連合会は土木分野の「土木賞」、建築分野の「BCS賞」から構成される新たな「日建連表彰」を創設しました。その中にあって、BCS賞の精神は変わることなく継承されています。

賞としての特徴

国内外には数多くの建築の賞があります。これらの中にBCS賞を置いたとき、特徴的な点として以下が挙げられます。

  1. 選考対象
    種類・規模にかかわらず国内において建築された建築物で供用開始後1年以上を経過した建物が応募できます。
  2. 選考基準
    建築の事業企画、計画・設計、施工、環境及び建築物の運用・維持管理等に関する総合評価を旨とします。
  3. 表彰の対象
    建築主・設計者・施工者の3者を表彰します。これは、建築物が社会的価値のあるものとして作られ、長く使われ続けるには、都市形成や地域環境づくりに理解を示す建築主、設計者の豊かな創造力、高い技術の施工者の3者の総合力が必要であるという思想に基づきます。
  4. 特別賞
    固有の課題(例えば、環境への配慮、革新技術の適用、建物修復など伝統技術の継承、都市再開発の推進等)に対する取り組みで特に優れている建築物を特別賞として表彰している。(第18回~第60回)
  5. 作品集
    各回の受賞作品を紹介するため、和・英両文併記の「BCS賞作品集」を編纂し、わが国の代表的建築物として広く紹介しています。

BCS賞の沿革

image 建築業協会のロゴマーク 正方形の中に建物をデザインした図形は、1985年に建築業協会によって商標登録されたものである。

image 表彰パネル 建築主に授与されるブロンズプレート。受賞した建物に取り付けられる。(第51回以前の回)

image 表彰パネル 現在の「BCS賞」の名称のブロンズプレート。(第52回以降の回)

image 賞牌 設計者及び施工者(共同企業体の場合は代表者(2006年より))に贈呈する。

image 表彰状 各受賞者に贈呈される。

建築業協会によって創設された当時の賞は「建築業協会賞」で、第1回から第51回までは表彰パネルにこの名称が刻まれていました。その後、建築業協会は2011年に一般社団法人日本建設業連合会に合併し、これを機に第52回より「BCS賞」に改称しました。(合併以前、既にこの呼称が広く使われ、親しまれていました)
呼称の変更の他にも、60年の歳月を通じて、時代の要請に応じて賞の見直しが行われてきましたが、創設時の精神は変わることなく継承されてきました。

1. 受賞作品の数と特別賞の創設

第1回(1960年)では、次の10作品が受賞しました。
・日本電波塔(東京タワー)
・日本生命保険相互会社南館
・法政大学校舎
・東京経済大学本館
・香川県庁舎
・八幡市民会館
・慶応義塾三田校舎
・新朝日ビルディング
・横浜シルクセンター国際貿易会館
・新住友ビルディング
これ以降も、毎年10作品前後が表彰されましたが、応募数の増加等に応える形で第13回からは15作品前後を選出するようになりました。

第18回に古建築の修復・復元を行った「法輪寺三重塔の復元」に関する応募がありました。選考委員会でこれについて協議し、「建物修復など伝統技術の継承」の観点から評価することとし、新たに「特別賞」を設けて表彰することとしました。このような主旨で設けられた特別賞は、その後授与する対象が拡大し、「環境への配慮、革新技術の適用、建物修復など伝統技術の継承、都市再開発の推進等に対する固有の課題の取り組みなどで特に優れている建築物」となりました。

BCS賞は建築物単体に授与する賞です。しかし、特別賞の設立に伴い、建物の集合体も受賞対象となるようになりました。これは「再開発事業や住宅団地のような建物の集合体とその都市計画的な意義は、その中に含まれる個々の建物は勿論、構成及び街づくりに対する関係者の努力、優秀な技術と施工上の創意工夫が高く評価されるもの」は受賞対象とするとの考えによるものです。

image 第01回受賞作品(1960年)
日本電波塔

image 第06回受賞作品(1965年)
国立屋内総合競技場

image 第10回受賞作品(1969年)
霞が関ビルディング

image 第22回受賞作品(1981年)
芦屋浜高層住宅街

image 第37回受賞作品(1996年)
アクロス福岡

image 第43回受賞作品(2002年)
せんだいメディアテーク

image 第58回受賞作品(2017年)
東京駅八重洲口開発 グランルーフ、グラントウキョウノースタワー、 グラントウキョウサウスタワー、駅前広場

2. 選考委員会

第1回の受賞作品は、いずれも当時の建築界を代表する建築家である次の11人の選考委員によって選出されました。 ・大江 宏・尾崎 久助・久良知 丑二郎・清水一 ・谷口 吉郎・土浦 亀城・東畑 謙三・中田 亮吉 ・松下 清夫・松田 軍平・村野 藤吾 その後、第4回からは、学識経験者・建築家・建設業関係者の各分野から4名、合計12名の選考委員が選考委員会を構成することとしました。
当初は委員長を定めていましたが、第4回からは合議を重んじるために委員長制を廃止し、現在に到っています。

3. 現地調査

本賞の応募は例年1月に行われています。応募できるのは、次の4月末の時点で、建物の供用開始後1年以上を経過した建物です。このような規定の理由は、本賞が「良好な施工」、「建物の維持管理状態や利用状況」などを重視することにあります。従って、応募作品が使われ始めてから現地を訪問して審査する現地調査は、本賞の選考において欠かせない要素となっています。

現地調査は第1回から受け継がれ、第4回以降は選考委員12名が4班に分かれ、分担して実施しています。 また、賞の創設当初は応募作品全ての現地調査を行なっていましたが、応募数の増加に対応するため、第22回からは第1次選考(書類審査)の後に現地審査が行われています。

現地調査の際は、建物の建築主・設計者・施工者の他、建物管理者にもご出席をお願いしています。建物巡回に加え、建物の企画段階から計画、設計、施工、更に運用管理についてお聞きし、訪れた3名の選考委員が評価について協議します。

或る選考委員経験者は、どの作品が賞に相応しいかを話し合う場面について、こう書かれています;「(建設関係者の間で、立場が異なれば意見が対立することは珍しくないとした後で)しかしながら、BCS賞選考における建築の総合的な評価では、建築専業者の判断と設計・施工兼業者の判断、さらには私のような大学関係者の判断が一致するのである。少なくとも私にとっては立場は違えども建築の文化的な背景を共有しているということを実感できる、あるいは建築の文化的な背景の存在を確信できるとても貴重な機会だった。」(参考資料4

4. 評価基準

選考に当たっての評価基準はその根幹において不変であり、賞の創設時以降揺らいでおりません。それでも、建築に対する社会の要請の変遷を受け、評価する観点やその方法については次のような見直しが行なわれてきました。
・第12回:環境問題が喚起されてきたことを受け、周辺環境との適合性について評価することにしました。
・第16回:都市環境の整備の観点から、建築の企画段階におけるに貢献について評価することにしました。
・第41回:応募作品の応募作品説明書に「環境」欄を新設し、「地域環境との調和、地球環境へ配慮、建物周辺環境の整備など」について記載することにしました。
・第50回、第57回:それぞれ、CASBEE ランクとBEE値、BEI値を応募書類に記載することにしました。

image 表彰式

image 懇親祝賀会

image 受賞作品集 毎回の受賞作品は和・英併記の作品集にまとめられ、受賞者に贈呈されるほか、建築に関係する官公庁、教育機関及び図書館や在日各国大使館に送付されます。

5. 表彰と広報活動

受賞作品は7月に発表され、11月に表彰式が各作品の建築主・設計者・施工者をお招きして開催されます。選考委員代表からの選考のご報告、ご来賓からのご挨拶と続き、次に各作品を代表して建築主に表彰状が授与されます。最後に建築主の代表からのお言葉を頂いてお開きとなります。式典には受賞作品の関係者が多数出席され、その賑わいは続いて開催される懇親祝賀会に引き継がれます。日本の建築に関わる様々なお立場、即ち建築主・設計者・施工者、更に学識者の方々までもが和気藹々と一同に介する貴重な機会となっています。

毎回の受賞作品の記録を後世まで残す「BCS賞受賞作品集」は、この表彰式に時期を合わせて発行されます。作品集は表彰式において各受賞者に贈呈されるだけでなく、表彰式の参列者の皆様にもお持ち帰り頂いております。。更に、BCS賞を広く一般にPRするため、大学の建築学科など関係各方面に作品集が送付されます。

参考資料

  1. BCS賞受賞作品ガイドブック、1993年、社団法人建築業協会
  2. 建築業協会50年史、2009年、社団法人建築業協会
  3. 新建築臨時増刊 建築業協会賞50年 受賞作品を通して見る建築 1960-2009、新建築社、2009年
  4. 松村秀一、「日本建築文化の底流建築業協会賞(BCS賞)創設50周年に寄せて」、新建築、 2009年11月号
  5. 菅順二、「BCS賞の創設と現在」、建築雑誌、Vol.132、No.1698、日本建築学会、2017年

建物用途にみる変遷

BCS賞の受賞作品は、創設以来60年の時点で累計958作品を数えます。これら作品は、そのまま昭和30年以降の日本の建築の変遷を映し出していると考え、受賞作品の建物用途を集計したところ、下の図のようになりました。
最初の第1回から第20回では、事務所ビルが受賞作品の3割以上、約1/3を占めていることが目立ちます。第21回以降はこの割合が激減し、第41回から第60回では全体の1割強となっています。また、官公庁舎等施設についても同様で、割合は減少傾向となっています。
一方で、占める割合が大きく増えたのは、学校施設と複合施設です。また、博物館・美術館をみると、常に受賞作の中である程度の割合を占めてきましたが、第21回から第40回の期間は著しく伸張し、受賞作品中、最も大きな割合となっていました。
「その他」の分類には、展示場・ホテル・保養所・病院・医療施設・福祉施設・研修施設・工場・駅・ターミナル・歴史的建造物など多種多様な用途の作品が含まれ、数の上では少数ですが、広範な用途の建物が受賞しています。

※本図に示す建物用途は、BCS賞事務局が応募申込書類への記載に基づいて独自に分類したものです。

グラフ