「私にしかできない仕事を探す」
堀田あずみさん(2017年入社)
株式会社プロスタエクセキューション
重機オペレーター【大型クレーン、軌陸車】
(じゅうきおぺれーたー)
工事現場における資材の運搬や移動にはクレーンやダンプカーが使用され、そのオペレーターは特殊な免許を必要とし、現場でも重要な役割を担っています。中でも鉄道に関する工事現場では移動のための道路がないことから、線路の上を走ることができる「軌陸車(きりくしゃ)」という特殊な車輌の運転が必要とされます。
今回取材させていただいた重機オペレーターは鉄道現場で駅舎の上にそびえる巨大なトラベラークレーンと軌陸車という2つの重機を操縦するけんせつ小町。鉄道工事という時間や場所の制限が多い工事で軌陸車の運転と、資材を積み下ろしするためのクレーン操縦をマルチにこなす技能を持ったプロフェッショナルです。
「女性社会に疲れ、飛び込んできました」
重機オペレーターである堀田さんは入社2年目。
現在勤める㈱プロスタエクセキューション(以下、プロスタEX)には中途採用で転職してきた。しかしその前から高層ビルなどの建設工事現場に導入されるタワークレーンのオペレーターを務めていた。この業界自体は13年目になる。
更にその前には、訪問介護の仕事をしていたという。そこから建設業界へという大転換のきっかけを「女性社会に疲れ、飛び込んできました」と笑う堀田さん。聞けば、もっと自然体でコミュニケーションをとることができる環境を求めたようだ。その上で建設業界へ入ることに決めたのは、地元の人からのアドバイスを受けてのことだったという。
「母が当時お好み焼き屋を経営していて、お客さんのなかに鉄筋工などの職人さんが多かったんです。女性が多い職場での悩みを相談した時に、男女の差があまり出ない仕事ということでクレーンの仕事をすすめてもらいました
そこで堀田さんは実家の近くにあったクレーン操縦の訓練学校に通って、教習を受け、クレーン運転士の資格を取得。タワークレーン工事を請け負う企業に就職した。
幼い子どもを抱えての職人生活
転職をしてタワークレーンオペレーターとしての生活に転機が訪れた。彼女は5年ほど前に出産を経験している。シングルマザーとして子育てをしながら働く道を選んだ堀田さんは、お子さんが生後4カ月を迎えたころから保育園に預けて働いたが、いわゆる「ワンオペ育児」には困難が続出した。
「子どもが熱を出しても、タワークレーンのオペレーターって、簡単に休めないんです。オペレーターが各現場に1人しかいないような状況で、そう簡単に代わりの人が見つからないから。自分でもそれはわかっているので、帰ることが本当にできなくて。もう現場の人に頼み込んで、なんとか早めに帰らせてもらっていたのですが、今考えるとよくやれていたなと思うぐらいです」
育児に悩む堀田さんの助けになっていたのが、「病児保育」や「病後児保育」といった自治体の運営するサービスだ。保育士に加え医師が駐在し、何かあれば医療的措置を施してくれる。おかげで堀田さんはなんとか働き続けることができた。そういうサービスを見つけたのも彼女自身だったという。
「お腹が大きいうちから動きました。『コレがだめだったらアレ、アレがだめだったらソレ』を3段階も4段階も自分で調べて、電話して、資料を取り寄せて申し込んだり、登録に行ったりしました」
そう言って最後に「復帰のために」と付け加えた堀田さんの口調には、当時抱いていた復職への強い意志が感じられた。
子育てと両立できる職場環境とは
とはいえ自治体のサービスにも休業日があるうえ、他に利用していた夜間保育も含めて、仕事のスケジュールにわが子を巻き込んでしまうことに対する辛さ、申し訳なさが堀田さんの胸中に残り続けた。仕事を子育てと両立させるにはどうしたらよいのだろうか。
そうして彼女は再びの転機を迎える。子育てとの両立に悩む堀田さんのもとに、現在勤めている会社の情報が飛び込んできたのだ。同社は重機による工事を専門的に請け負っているが、なかでも鉄道に関わる工事現場を多数担当。鉄道工事は主に終電後から始発前までと夜の短い時間で行われるため、この現場に配属される人は短めの夜勤がメインになる。日中・夜間と多様な現場を抱える会社なら、社員の様々なライフスタイルに合った配属の調整が可能だ。現在、堀田さんの上司にあたるプロスタEXの金城さんもこう語ってくれた。
「最近では『祖母の介護のために昼を空き時間にしたい』という社員からの相談をうけて、夜勤をメインにしたシフト転向の例があります。ライフスタイルの変化に合わせて柔軟な対応ができる環境づくりをしているつもりです。
時間との闘いが続いていた堀田さんはこの会社に光明を見出し、自ら会社説明を受けに行き、転職した。
最近になって堀田さんを取り巻く環境は変わった。堀田さんの母やパートナーが育児をサポートしてくれるようになったのだ。そして会社もライフスタイルにあわせた調整を行ってくれることで、堀田さんが抱えていたワークライフバランスの苦労は解消されつつある。「仕事と子育ては、本当に会社の理解と家族の支えがなかったら両立できないんですよね」と、ワークライフバランスの実現には職場・家族の理解がどちらか一方でも欠けてはいけないと語ってくれた。
駅ホームの上にそびえる光景は圧巻だ。
(撮影協力:JR東日本)
新しい環境のなかで
プロスタEXに転職後の堀田さんは現在、夜間の現場を主として、時おり日中の現場に入るというような家庭のスケジュールに合わせた変動型勤務を行っている。仕事が好きなんです、と語る彼女の現在の業務内容も、やはり重機のオペレーターだ。
今回伺った堀田さんの担当現場は都内の駅改良工事現場。ここで彼女は構造物の骨組みとなる鉄骨などの吊り上げを担当する巨大な「トラベラークレーン」と、線路(軌道)の上を専用の車輪で走行する「軌陸車」という2種類の重機を操縦している。
現場生活のなかで堀田さんが大切にしているのがコミュニケーションだ。相手の気持ちに気を配りつつ、自然体でのコミュニケーションを通じてお互いの業務に対する思いを理解しあえるのがこの業界のいいところだと聞かせてくれた。
「相手に嫌な思いをさせないよう言葉を選んでいます。それでもあまり気を遣わないで、自然体でいられて。この業界にいると、言っていることと本心が違うんじゃないかみたいな難しさが本当になくって。上下関係に気を使うことも、気が付くと最近考えたことがなかったなって思います」
さらに堀田さんへの信頼があついことを知るエピソードも聞かせていただいた。
「作業の改善ポイントを見つけた時に、以前は遠慮していたのですが、最近はやんわりと伝える努力をしています。『1回やってみていいですか』と言うと、みんな嫌な顔をせずに『ちょっと設置してみて』と言ってもらえて。提案した時に相手が了承してくれたということは、一作業員の自分も『現場の輪の中にいる』と捉えてくれたということなので、連帯感を感じられるんです」
共に働く現場の仲間を大切にし、仕事熱心な彼女は、会社からの信頼も厚い。取材時も「現場の花形」だと先輩社員から褒められ、「いやいや」と照れ笑い。持ち前のコミュニケーション力で現場でも明るく働く姿が目に浮かぶようだった。
未来に向けて
そんな彼女は今後、仕事面ではどのような道を歩んでいきたいのだろうか。聞いてみると、スキルや知識を深めていきたいという。
「以前の会社にいたときの苦労がなくなって、安心に浸っちゃっている部分があると思います。たぶん今すごく良い環境にいて、2年前の自分と比べて、『安心しちゃっている』部分があります。だから知識や技能を上げていかなきゃと思います」
他の重機の操縦資格も取得し、今まで担当してきた重機以外にも挑戦していくという。
「やっぱり『男社会だししょうがないな』と思うこともあります。重機オペレーターは機械の運転だけですが、力がいる仕事ではどうしても男の人にはかないません。最初の頃は『男性に負けたくない』と思っている時期がありましたが、近頃は『私は男の人ができないことをできるようにしよう』と考えるようになりました。女の人にしかできないこと、さらには私にしかできないことを探すのも一つの仕事なのではないかなと。そう考えたら、いろいろなことが見つかる気がします」
自分にできることを見つけ、それを進化させていこうとする堀田さん。彼女なら今後も、愛する家族との日々を大切にしながら、ワークライフバランスを実現するお手本として建設業界で活躍し続けることだろう。