ACe建設業界
2011年5月号 【ACe建設業界 創刊号】
ACe建設業界
いま、建設業界に
 求められていること、
 果たすべき役割とは
政策提言集団としての
 活動を
産業の中核団体として
 王道を歩め
フォトエッセイ
今月の表紙
目次
ACe2011年5月号>特集
 

[特集] 新日建連に期待すること

政策提言
集団としての活動を

 
 
 
[文]
大石久和(Hisakazu Ohishi) 国土学アナリスト


おおいし・ひさかず 1945年生まれ。兵庫県出身。京都大学大学院工学研究科修了。建設省道路局長、 国土交通省技監を歴任。財団法人国土技術研究センター理事長。早稲田大学大学院公共経営研究科 客員教授。ほかに東京大学大学院、京都大学大学院等の特任教授を兼務。著書に『国土学事始め』『国土学再考 「公」と新・日本人論』(ともに毎日新聞社)

  このたびの新日建連の誕生に心からお祝いを申し上げます。

 いまのわが国には、地震などの厳しい自然災害から国民の安全を守り、停滞する経済状況を打ち破ることが喫緊の課題である。そのためには世界から大きく劣後しつつあるこの国のインフラの整備状況を改善し、それを支えるべき建設産業界の悲惨な状況を改善していかなければならないが、そのためには新日建連の先導的な活動が不可欠である。

 公共事業や公共サービスと呼ばれる財やサービスは、社会が高度化し複雑化するのにあわせて、それぞれがより高度になり、またより多岐にわたるようになる。東日本大震災で、あらためてわが国土の脆弱性に気づかされたが、われわれは、人口の減少と高齢化や、地方のコミュニティの崩壊といった問題を抱えながらも、自然災害からの国民生活の安全性の向上と、東アジア各国の著しい台頭のなかでの経済成長を図らなければならない。

 にもかかわらず、厳しい財政事情を理由に公共事業費を大幅に減少させて、結果として、勤労者の平均給与も大幅に低下するなど、日本社会は貧困化への道をたどり始めている。

 このような時代に、新日建連の果たすべき役割はきわめて大きく、以下の活動を衷心より期待するものである。





シンクタンク機能をもつ活発な政策提言の機関として

 もとより産業団体であるから、新日建連は建設産業の意見集約機関であることはいうまでもないが、この機能を一歩進めて、建設事業全般から、特に公共事業についてのシンクタンク機能を持ってほしいのである。

 国土交通省周辺にも研究機関や公益法人などがあるが、それが省周辺という制約を持つことも事実であって、過去の施策や省庁間の調整からのがれて、まったく自由で大胆な研究や提言を行うことは難しいのもやむを得ない事情がある。

 いまのわが国は、過去の趨勢のもとに政策を考えることができるような甘い状況ではなくなっている。財政政策を初め、自然災害対策や国土・地域・都市政策などについて、国土計画レベルの「大きな物語の提出」とでもいうべき政策転換をしなければ、もう次の時代の日本はないというところにまで来ている。

 国土に働きかけて国土から恵みをいただかない限り、この国に暮らす国民生活の向上はないが、国土の自然の厳しさ、多様さ、複雑さを知り尽くしているのは、建設産業だけである。自然がしばしば牙をむくこの国土での、生産や消費などの生活を継続していくための、人の住まい方、都市と地方の関係、人、もの、情報の流通などを今後どのように構築していくかについて、省庁間のしがらみを超えて提案できる者が存在しなければならない。

 また、かつての中国なら、そこで何が整備されようが関心を払う必要もなかったかもしれない。しかし、すでにGDPがわが国を凌駕しているのに、最近では高速道路も高速鉄道も、わが国のストック総量分を毎年新たに供用しているときに、たとえば、わが国の経済を牽引すべき首都圏の環状道路整備に、あと20年もかかるというわけにはいかないところに追いつめられているという認識が必要なのである。

 ものの動きも人の動きも、他国の方がわが国よりはるかに高速に円滑に展開できるようになったとき、日本の企業はわが国土に残るだろうか。そのときに、わが国の人々は、現在得ている生活のレベルを維持できるだろうか。

 製造業やサービス産業は、すでにその兆候があるように、わが国土を離れて存在することができるし、海外で成長することもできる。しかし、国民は、職を失うばかりで、ついて出て行くわけにはいかないのだ。したがって、経団連や経済同友会からでは提言を期待しにくい政策があるのだ。そうなると、この国土に残って生きていくしかない国民の安全で効率的な暮らしを確保するために、実効ある政策を提言する機関が絶対に必要だ。

 また、ほとんどの企業は、その顧客のほとんどすべてが、いまに生きている人々である。ところがわが建設産業の提供するサービスは現世代人も顧客だが、まだ収入がなく税を払ってもいないし、選挙権もなく政治に意見反映できない若年層や将来世代が圧倒的な数の顧客である。このような違いを踏まえたシンクタンク機能と、その研究に基づく政策提言能力を有する研究機関が、過去の政策や省庁間の思惑などを超えて、自由に活動することがいまほど必要なときはなく、まさに新日建連は時宜を得て誕生するのである。

経済団体活動の活性化の契機として

 最近、経団連の副会長人事がなされたが、残念ながら建設産業界からの登用はなかった。一般企業と建設産業とでは、上記に示した違いもあるうえに、こちらは自らが商品や新たなサービスを企画するというよりは受注産業であるという違いもある。

 むしろ他産業との違いがあるからこそ、巨大な雇用を有する産業分野である建設業界が、経済団体活動において確固たる地位を占める必要があるのではないか。是非とも、新生・日建連の誕生を契機に、国民生活の安全・効率・快適に奉仕する建設産業が、経済界において名誉ある地位を占める活動を強めていただきたいのである。





 
   
 
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