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「働く人」=「WORKMAN」 建築の世界で働くさまざまな人を紹介していきます。




この道30年。まだまだ勉強の日々。

鏝(こて)を自在にあやつり、土やセメント等を用いて、建物の壁や床、階段、柱、土塀などを塗り、建物を仕上げていく左官。その起源は奈良時代にまでさかのぼる。宮中の壁塗りの役職だったとされる歴史ある仕事だ。昔は、家を建てるのには大工と左官だけでまかなえた…と言われたほど。物づくりの原点の職であり、あらゆる建物を建築するために必要不可欠な存在であることは、今もゆるがない。

建物の“化粧”を担い、1ミリ単位の精度を求められる。建物の美しさの部分を担っているのが、左官なのである。
日々、黙々と愛用の鏝を繰る東郷さんは、数々の技能競技大会入賞実績を持つ現代の名左官の一人だ。

左官の仕事場は、ビルやマンションの建設工事現場である「野丁場」と、伝統的な日本家屋や茶室などの「町場」がある。東郷さんは主に「野丁場」で、腕をふるっている。
どんな塗りも一度では終わらない。たとえば、一つの壁は、下塗り、中塗り、仕上げの三段階の塗りを経てようやく完成する。それぞれ次の段階を頭に入れて塗らなければ、美しい壁は生まれない。まっすぐに、均一に塗るためには、技と感性が求められる。
「ただ、ただ、正確に、きれいに塗っていくことを心がけています」と東郷さん。きめ細かく、ていねいな仕上がりに定評がある。
この道に入って30年余り。数々の現場で経験を積み重ね、「先達の技を見ながら、体で覚えてきました」。そんな東郷さんだが、「まだまだ勉強することが多い世界」だと言う。


マンション壁面を下塗りしている様子。
正確な動きで鏝を滑らせていく。


「まだまだ勉強することが多い」と語る東郷さん。
今日も現場で鏝をふるっている。

扱う素材はセメント、石灰、せっこうなど多種多様。近年は、健康により配慮した新素材も次々に生まれている。増えていく素材の一つ一つの性質を見極め、その日の天候や土地の風土も考慮しながら、配合や塗り方を微妙に変えていかなければならない。その組み合わせは、果てしがない。
「素材の性質をよく見て、天候も考え、どう配合して、どの鏝と合わせるのがベストなのか…。合わないと思えば、鏝を何度も変えたり、塗るときの力の入れ具合を加減したり、試行錯誤します。毎日、新しい発見がありますね」。


関西大学新館ロビーを彩る鏝絵「天神祭」。船渡御と宮入りの様子を約200人もの人物を配し描かれている。設計者が描いた下絵をもとに、一人ひとり鏝で仕上げていった。

昨年春完成した関西大学新館ロビー壁面の鏝絵も、初めて挑戦した仕事だ。鏝絵とは、漆喰を使い鏝で描くもの。「天神祭」と「裁判風景」の2作品のうち、「天神祭」を東郷さん中心に6人で担当。全員、鏝絵に取り組むのが初めてだったうえに、高さ約2m、幅約7mという大作。京都在住の鏝絵に詳しい先生のもとで学んだり、ミニチュアパネルを作って練習するなど、準備に約2カ月間をかけ、さらに約4カ月かけて制作した。
「今まで経験したことがない繊細さ」だったので、作品に合わせて鏝を40数種類手づくりしたほど。それだけに完成したときの達成感もひとしおだった。
「でも、振り返えると、ああすれば良かったこうすれば良かったという思いが残っています。それを次の仕事に生かしていきたい。これからも、いろいろな仕事に挑戦していきたいですね」。
東郷さんは、今日も壁と真摯に向き合い、一心に鏝を繰る。

株式会社亀井組 本社
左官
東郷 章(あきら)さん

宮崎県出身。小林高等職業訓練校を卒業後、地元の建設会社に入社。昭和60(1985)年、株式会社亀井組に入社。平成8(1996)年よりグループリーダー長を務める。平成6(1994)年、第30回全国左官技能競技大会優勝。平成14(2002)年、国土交通大臣より優秀施工者(建設マスター)顕彰。