File No.006
File No.007
File No.008
File No.009

「働く人」=「WORKMAN」 建築の世界で働くさまざまな人を紹介していきます。


タイトル
ビルの骨組みや命を守る足場を造る

タワークレーンに吊られた巨大な鉄骨が、建築中の高層ビルの突端にゆっくりと降りてくる。真下では数人のとびが、むき出しの鉄骨の上に立ち、降ろす位置を慎重に指示している。ビルの骨組みとなる柱や梁などの鉄骨を組み上げていくのが、とびの仕事だ。

タイトル
とびが組んだ鉄骨は、あとから別の職人たちがボルトを締めたり、溶接したりして、しっかりと固定していく。また、ビルを建てるときの安全設備となる作業足場を組んでいくのも、とびの仕事である。何もない空間に上へ上へと足場や鉄骨を組んでいく。工事の始めから終わりまで、危険の伴う高い場所で、安全に細心の注意を払いながら作業を進める。とびの仕事は幅が広く、建築現場では頼りになる縁の下の力持ちだ。


大きな鉄骨をクレーンで吊り降ろす作業は、細心の注意が必要だ。慎重に声を掛け合いながら、鉄骨を組む。


図面を見ただけで、完成をイメージできれば一人前。

この道30年、ベテランとびの小堀さんは、父親がとびの名職人で、高校の頃から父親の仕事を手伝ってきた。
「子供の頃、家には大勢のとびが出入りしていましてね。普段はふつうのおじさんに見えるんですが、現場に出ると別人のようにきびきびと仕事をする。いつも臨機応変に対応して、『アタマいいなぁ』と思うこともしばしば。あこがれましたね」と小堀さん。
高校を卒業して、一度は別の道も考えたそうだが、やはりカタチに残るものをつくりたいと、職人の世界に足を踏み入れた。「慣れるまでは大変でしたね。
でも、3年ぐらい経ったころかなぁ。足場にしても鉄骨にしても、図面を見ただけでパッと完成形がイメージできるようになった。不思議ですよね。それから、がぜん仕事が楽しくなりました。
親父が『すぐにあきらめたらアカン』とよく言っていましたが、やっぱり、ひとつのことをコツコツと続けるって、大切ですね」。

タイトル
今は社員を指導することのほうが多くなったが、下積み時代は何でもやったと小堀さん。「最近は、とびの仕事が細分化されてきたけれど、何でもやれて一人前。それに、いろいろできたほうが楽しいからね」。

技術や知識を身につければ、仕事の幅がどんどん広がる。

とびといえば、高所作業。高いところは怖くないのかを聞いてみた。
「よく聞かれますが、いつまでたっても怖いです。というか、怖いと思ったほうがいいんです。危ない目にあうと、自分だけじゃなく仲間にも迷惑をかけてしまいますよね。怖いと思ったら這えばいい。カッコなんて気にせずに、這う勇気も必要なんです」。
確かに、現場で作業を見ていると、チームワークが要求される仕事だということがよくわかる。
クレーンなどに物を掛け外しする作業を「玉掛け」というが、鉄骨などの重量物の玉掛けは、ワイヤーを掛ける位置を少しでも間違えると、重心がずれて落下する恐れがある。現場で働く仲間たちの命にかかわる仕事だ。確実に玉掛けをするためには、専門的な知識や技術も必要となる。
また、とびの仕事には、玉掛けや高所作業車の運転技能者、足場・鉄骨の作業主任者など、資格が必要な作業がたくさんある。とびの技能と地位向上を図るために、国家資格の技能検定試験も実施されている。資格を取得すれば、それだけ仕事の幅を広げることができる。小堀さんも十数種類の資格を持っているという。

タイトル

「とびは肉体労働と思われがちですが、専門的な知識や技術も必要です。大人になってからのほうが真剣に勉強してますね(笑)。でも、熱心に取り組めばそれだけ知識も技術も身についていく。技量さえあれば、どんどん自分の力で切り拓いていけるので、やりがいのある仕事ですよ」。
30年前と比べて、さまざまな機械が登場したが、それでも人の知恵と技が必要な作業はなくならない。
それだけに、とびをめざす若い人がもっと出てきてほしいというのが小堀さんの想いだ。「しんどくてもすぐに投げ出さず、やり続けることが大事。この仕事は、はまったら面白いですよ」。
そう言い残して、小堀さんは颯爽と現場に帰っていった。

 

小堀久志さん
有限会社 小堀組(株式会社 北梅組専属)
代表取締役
一級とび技能士、登録とび・土工基幹技能者

小堀組2代目。昭和54年高校を卒業後、他の建設会社で数年修業をしたのち家業を継ぐ。
「とび技能検定試験」の検定委員を長年務め、平成22年度からは主席検定委員。関西建設技能者会の代表幹事を務める。