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「働く人」=「WORKMAN」 建築の世界で働くさまざまな人を紹介していきます。


タイトル
建築模型は設計者のよりよき伴走者

天を突く高層ビルや巨大な商業施設を、そのままミニチュアにしてリアルに再現した建築模型。50年以上にわたって建築模型を作り続けている三浦良雄さんのアトリエには、そんな模型のいくつかが置かれている。

「三浦さんの建築模型は、とても緻密で美しいですね」。 そう話しかけると、三浦さんはきっぱりとこう言った。
「建築模型には、ただ『美しく見せる』というだけでなく、建築に欠かせない役割があります。それは、設計者が手にとりながら、さまざまな設計変更や改良を加えることができる、ということなんです」。

通常の建物なら設計図だけで十分だが、独創的な建物や大型建造物などになると、設計図だけではなく、建築模型を使って、より具体的な検討をすることが求められる。設計図に加え、図面通りの建物の縮小版があった方が、細部までイメージしやすいからだ。


建築模型の中でも完成模型は、実際の建物をそのままミニチュア化したかのように精巧。上の模型は、車道や植栽まで作り込んであるので、全体の景観がよくわかる。

ときには窓から内部をのぞきこんだり、上から建物全体を見下ろしたり。建築模型があるおかげで、まるで自分がガリバーになったような気分で、建物をあらゆる角度から見つめることができる。高層ビルを上から見下ろすなんて、実際の建物ではなかなかできないことだ。
何より重要なのは、実際に立体物を目にすることで、設計図では見えてこなかったニュアンスがくっきりしてくる点だ。建物を建てる前に改善点を見つけ出し、改良を重ねれば、よりよい完成物へと結びつけることができる。設計を練り上げていくための手法のひとつとして、建築模型はこうして役に立っているのだ。

設計変更にもすばやく正確に対応

そんな重要な役割を持つ建築模型だからこそ、端々まで設計図に忠実で、そして正確でなくてはならない。
まずは設計者と建物のコンセプトなどを綿密に打ち合わせたあと、設計図の寸法に合わせて素材をカットし、模型のパーツを作っていく。いまは高速のカットマシンがあるが、昔はカッターナイフを使って一つひとつ切り分ける根気のいる作業だった。「切り出すだけで2時間くらいかかったパーツもありました」と三浦さんは思い返す。

「建物の材料に合わせて、模型の素材も選んでいくんですよ」。

そう言って三浦さんは、たくさんの素材を見せてくれた。白くて軽いスチレンボード、ずっしり感のある粘土、バルサ材(軽くて加工しやすい木材)、頑丈で固い石膏。たとえば、寺社仏閣のような和建築を模型にするときは、バルサ材を使って木造の雰囲気をたっぷりと出し、実物に限りなく近づけていく。


こちらは設計を検討するための建築模型。ときには周囲にある建造物まで再現し、日当りや見通しなどを検討することもあるという。

制作に使う道具も、三浦さんは手作りする。素材のカットは機械でできても、細かい着色やパテを塗る作業は、やはり手で行わなければ質感は出せない。
もうひとつ、建築模型が備えていなければならない重要なポイントがある。それは「取り外し、取り付けが可能」という点だ。
パカッ。三浦さんがふいに、手元にあったスチレンボード製の模型の一部を取り外した。
「ね。こんなふうに二階部分が外せると、一階部分を上からながめることができるでしょ」。
なるほど。上からのぞきこむと、一階の間取りが手に取るように分かる。壁の間仕切り、窓の配置、部屋の広さ、どれもが一目で確認できてしまう。
「取り外しができるだけでなく、設計者の『この部分を変更してほしい』という要望にすばやく応えるのも大切な仕事です」と三浦さん。こうして設計者との二人三脚で、年間100以上の模型を半世紀にわたって作ってきたという。

手で引っ張るだけで簡単に取り外せる二階部分。設計者は模型をあちこちから観察し、見直しや修正を加えていく。

ひたすら作る。作ることそのものが喜び

設計のよきサポート役として存在している建築模型。しかし、ときには、非常に緻密でリアルに実物を再現したり、プレゼンテーション用に印象強く華やかに作ったりすることもある。
それだけではない。古き良きものを次の世に伝えるという面においても、建築模型は貢献している。たとえば、設計図すら満足に残っていない昔の建築物を、模型として後世に残していくのもまた、重要な使命だ。
古建築の模型を作るとき、三浦さんはワクワクするという。「文献を調べたり、当時に詳しい人に話を聞いたりしながら、どんな構造の建物なのか想像を膨らませていきます。そのプロセスがとても面白いんです」。むしろ設計図がないほうが、チャレンジ精神がわいてくるという。模型の材料、質感、色彩にまでこだわり、はるか昔の建築に思いをはせながら作業に集中しているときは、時間のたつのも忘れてしまう。また、その時代らしさを表現するため、人力車や大八車を添えることもある。ちょっとした遊び心が、模型に息吹を吹き込む。
「ものづくりが根っから好きなんですよ。好きなことに打ち込んで、それが設計のお役に立ったり、お施主様に喜んでいただいたり。幸せなことですね」と三浦さん。ものづくりの姿勢や素晴らしさを教えてくれた。


五重塔の建築模型。中央の柱が宙に浮き、免震の役割を果たしている様子が分かるよう、断面模型になっている。「五重塔はずっと作りたかったので、注文があったときはうれしかったですね」

「模型には手作りの良さがある」。三浦さんは後継ぎである息子さんに、よくそう話しているという。

 

  三浦 良雄さん

建築彫刻家の祖父、模型制作者の父に影響を受け、高校卒業後に建築模型の世界へ。以来、大阪都心の商業ビルや歴史的な建造物など、数多くの模型づくりを手がける。2009年に株式会社三浦模型の代表取締役を退任し、制作の第一線を息子に託す。