ACe建設業界
2011年7月号 【ACe建設業界】
ACe建設業界
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目次
ACe2011年7月号>特集
 

[特集] 平成23年度意見交換会を開催

社会資本整備の推進を改めてアピール

 
 
 
[文]
川嶋直樹(Naoki Kawashima) 国土交通省 東北地方整備局企画部長

社会資本整備のあり方を真正面から議論
改善が進む入札契約制度の課題
   
同行記者取材記


四国地区の意見交換会

 社団法人日本建設業連合会と国土交通省の各地方整備局および北海道開発局との共催による「公共工事の諸課題に関する意見交換会」が、今年も全国九地区で開催された。

 意見交換会は、土工協でこれまで16回にわたり開催され、多くの成果を挙げてきたが、旧日建連、土工協、建築協合併による新日建連の発足に伴い、日建連土木本部の主要事業として継続していくこととなっている。

 東日本大震災の早期の復旧・復興や、東海・東南海・南海地震等今後予想される大災害に対する予防的措置が求められる中、国、地方公共団体、関係機関等と日建連の本・支部関係者が一同に会し、熱心な議論を繰り広げる会議となった。

 5月18日の関西地区を皮切りに、同23日中部地区、同26日四国地区、同30日中国地区、6月1日北海道地区、同3日東北地区、同6日北陸地区、同9日九州地区、同13日関東地区の順で意見交換会は行なわれたが、震災の復旧・復興が急務となっている東北地区では、東北地方整備局との懇談会として開催された。

 各地区とも地方整備局長、北海道開発局長および中村満義日建連土木本部長(鹿島建設社長)の挨拶、提案テーマに関する説明および回答、質疑応答、自由討議の順で会議は進行した。今回日建連が意見を交換するテーマとして掲げたのは、(1)社会資本整備の推進(2)入札契約制度の改善―の二点。2時間という限られた時間であったが、活発な意見交換が行なわれた。

社会資本整備のあり方を真正面から議論

日建連土木本部の首脳(九州地区)

 3月11日に発生した東日本大震災は、広範囲にわたり未曾有の被害をもたらすことになった。被災地域の復旧・復興対策のあり方や今後予想される大災害への備えについて各方面で議論が行われているが、一方で、建設業界は、長期にわたる公共投資の減少や景気の低迷により、過去に経験したことのない極めて厳しい経営状況におかれている。

 こうした状況を踏まえて日建連は、提案テーマの第一として「社会資本整備の推進」を掲げ、東日本大震災に関わる応急復旧対策および復興対策の推進、成長促進型公共事業の強力な推進等について、受発注者が共通の認識を持って取組んでいくことを提案した。

 公共事業に対する批判的な風潮がある中、社会資本整備の重要性を主張していくことに対し、これまで日建連はやや萎縮してきた面があった。しかし、東日本大震災の被災状況を目の当たりにした今、高速道路網など社会資本整備が果たした役割が見直されるとともに、災害による被害・影響を最小限に留め、安全・安心な生活を守る予防的対策としての重要性が明らかになっている。

 中村土木本部長は、各地区の意見交換会の挨拶において、「失われた命、奪われた生活はお金で元に戻らない」ことを繰り返し強調し、「そのためにも国民の安全・安心を守る社会資本整備の必要性を真正面から主張していかなければならない」と訴えた。

 出席した発注機関からも、国民の安全・安心を守る社会資本整備の重要性を指摘する声が相次ぎ、これからの社会資本整備に対する考え方等について、日建連と発注者が同じ方向に向いていることが明らかになった。今後は、社会資本整備に対する国民の理解促進が官民共通の課題となってくる。日建連は提言力、発信力の強化という三協会合併の効果を活かして、広くアピールしていく方針だ。

改善が進む入札契約制度の課題

 第二の提案テーマは、「入札契約制度の改善」。これまでの意見交換会においても繰り返し取り上げてきたテーマであるが、今年度は「総合評価方式の改善」「実効性のある低入札防止対策の導入・実施」「建設現場における生産性向上と適正利益の確保」の三点について改めて改善を求めた。

 これまでもテーマとなった総合評価方式の改善や低入札防止対策といった要望事項は、翌年の意見交換会までに何らかの改善策が検討されており、そのことに対し中村本部長は謝意を示した。例えば、本年4月、国は低入札調査基準価格の三度目の引き上げを実施し、追随する地方公共団体も出ている。また、国では入札手続きの負担を軽減するため、二段階選抜方式を試行拡大している。

 生産性向上と適正利益の確保についても意見が交わされ、受発注者双方による継続的な改善が必要という方向で一致した。

 しかし、解決に至っていない課題があるのも事実。特に、「予定価格の事前公表の廃止」は、国からの働きかけ等もあり、事後公表へ転換した地方公共団体も出るなど進展が見られたが、不正行為への不安などから事後公表に踏み切れない地方公共団体も多く、今後も粘り強く訴えていくことが必要といえそうだ。

 意見交換会はこのような成果を残したが、今回の大きな特徴は、多くの地区で日建連支部長が地域の実情を踏まえた要望事項を発言したことである。課題解決に向けては、支部の重要性が一層増してきており、活動のさらなる活性化を図る必要がある。今後も支部レベルで、定期的に意見交換する場を設けるなど、さまざまな取組みが期待される。

 
   
 

[特集] 同行記者取材記

平成23年度の意見交換会を振り返る

 
 
 
[文]
米澤博臣(Hiroomi Yonezawa) 日刊建設産業新聞社 記者

 旧来のしきたりからの訣別、土木四団体の合併と、最近、建設業界の動静は目まぐるしく変化してきた。そして今年4月、日本建設業団体連合会、日本土木工業協会、建築業協会の三団体が合併。名実ともに日本の建設業界を代表し、先導する「日本建設業連合会」が誕生した。

 しかし、この大きな潮流の中にあって、新日建連に移行してもなお変わらず、脈々と受け継がれた活動がある。国土交通省との共催で、全国九地区にわたり各地方整備局等と忌憚のない意見を交わす「公共工事の諸課題に関する意見交換会」だ。過去16回、土工協が事業の柱に位置付けて、展開してきた取り組みである。

 ここ数年は、受注者側が適正な利潤を確保できる仕事環境の実現に向けて、入札契約制度等の議論を深めてきた。今回の合併に伴い、新日建連がBCS賞とともに、意見交換会も承継。業界を先導する団体の提言力・発信力を発揮する上で、この意見交換会が一層有益なステージとなることに注目が集まっていた。

 そうしたさ中、日本を一気に不安感で包み込む出来事が発生する。3月11日の「東日本大震災」。東北地方や関東地方等に未曽有の被害をもたらし、日本国民は千年に一度とも言われる自然災害の猛威と恐怖を目の当たりにした。

 その「復旧・復興」への協力・貢献こそが建設業に課せられた使命の一つであり、当面、日建連が対応すべきことでもある。依然、震災に対する社会の関心も高い。このため17回目の今年、「社会資本整備の推進」をテーマの一つに位置付けて、議論を繰り広げることとなる。

 これまでの業界にとって、この議論は、社会からの風当たりが強いこともあり、どこか萎縮し、その主張に消極的だった。建設業に携わる者がその必要性を訴えようとしても、「我田引水」、仕事が欲しいだけだと、うがった見方をされてしまうからだ。しかし今回は、意見交換会皮切りの関西地区で中村満義土木本部長が、社会資本整備の重要性を「真正面から社会に主張していく」ことを表明。社会に道義を昂揚しようと正々堂々、真正面からの議論に臨んだ。

 特に、中村本部長が「命や失った生活はお金で買えない」ことを訴えたように、一度、被災したならば復旧・復興にかかるコストや時間は莫大だ。くしくも、日建連の野村哲也会長が団体発足時、建設産業の大きな役割が「命を守ること」であると強調したのと同じ思いである。予防的対策としての社会資本整備がいかに大切か、また社会資本整備が果たす役割の大きさを広報する必要性も強く訴えた。

 震災を境に、建設業の使命感に強く燃える人は多かったのだろう。こうした日建連側の意見に発注者側も呼応。各局長からは、今回の震災を受けて「これまで進めてきた社会資本整備」や「信頼性の高い道路ネットワークの整備」「阪神・淡路大震災以降進めてきた耐震化」は間違っていなかったなどの認識が示された。また「安全安心の確保、地域経済の発展のため、この震災を教訓」に取り組みたいなど、前向きな意見も寄せられている。

 そのような発注者の姿勢に、意見交換会担当の大田弘副本部長もエールを送る。時には、公共事業を非常階段にたとえて「非常階段を年に何回使っているのか聞かれ、一度も使っていませんと回答した場合、そんなものはやめなさいと言う社長が出現しかねない中で、本当に悔しい思いをしながら国土を守っていただいている」と、発注者の労をねぎらった。

 また、事業の「視える化」や「語り部」も提案。命を救う緊急道路など役割を可視化し、なぜこの社会資本を整備しているのかも語り継いで説明していく必要性を強調した。こうした、真正面からの社会資本整備の議論で活発な会合となり、受発注者双方の共通認識が深まった意味からも成果は大きい。この震災の教訓を後世にも伝え「市民の目線に立った主張」が今後、展開されていくことが期待される。

 意見交換会で、もう一つのテーマとして取り上げられたのが「入札契約制度の改善」。これまでも議論を重ねてきたテーマだ。村田曄昭公共工事委員長、木村洋行契約制度研究委員長、金井誠積算・資材委員長、柿谷達雄海洋開発委員長の四委員長が、それぞれ役割を分担して発言。直接、発注者名をあげて、改善を促した。「総合評価の評価点にもっと差がつくように工夫してほしい」、予定価格を事前公表する問題においては、発注者による「価格誘導である」と厳しく迫り、事後公表への切り替えを要望している。

 これまでもこうした要望は、業者の「自助努力」の前提のもとに、さまざまな機会を通じて発注者に行ってきた。その積み重ねが、三度にわたる国の調査基準価格の引き上げや、事後公表に変更する地方自治体の増加など、一歩一歩ではあるが着実な改善につながっている。

 さらに今回、「受注者のために」や「受発注者が協力して」という発言が、発注者側から多く聞かれ、「双務性の確保・向上」という意識も芽生え始めていた。「受発注者がともに、国民のために適正なものを納めようと同じ方向」に向かっていることに、中村本部長は手応えを感じたと言う。

 支部の活性化という観点からも、今回の意見交換会は大きな役割を果たした。七地区で支部長自ら、初めて発言したからだ。低入札対策等をお願いした訳だが、裏を返せば自助努力の宣言でもある。特に中国地区では今後、支部と整備局が定期的に意見交換することを中村本部長自ら確認したほど、支部活動の活性化に対する期待は大きい。足腰となる支部の活性化は、本部活動にも必ずやプラスに働くことだろう。

 今回を振り返っていると、2年前の出来事がなぜか私の脳裏に蘇った。土工協新会長として意見交換会に臨んだ中村会長(当時)との会話についての記憶だ。新会長として意見交換会をすべて終えた時の状況を、何かにたとえてほしいとお願いすると、訣別宣言やコンプライアンスの徹底等で業界の基軸を大きく変えた前会長の葉山莞児氏を持ち出し「葉山さんが蒔いた種に、私が水を撒いている所」と語ってくれた。

 水を与えられた種は、2年が経過して、今や社会資本整備の真正面からの議論、入札契約制度の着実な改善、双務性の確保・向上などという芽を出して成長を続けている。その芽は三団体合併という「接ぎ木」により、三つのDNAを受け継ぎ一層強い苗となった。大変革期という厳しい環境だからこそ、より大きな成長を遂げ、様々な実を結ぶことができるはずだ。

 建設業界の健全な発展、ひいては日本国の復興に向けて、新日建連に課せられた使命・役割は大きい。中村本部長が「永遠のテーマ」とたとえる「社会資本整備の着実な推進」、またその国民的議論への発展、会員各社の適正利益の確保の実現等に向けて、今後の意見交換会と産学官共同の取り組み、そして日建連の更なる「成長」を見守っていきたい。
 
   
 
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