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米澤博臣(Hiroomi Yonezawa) 日刊建設産業新聞社 記者 |
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旧来のしきたりからの訣別、土木四団体の合併と、最近、建設業界の動静は目まぐるしく変化してきた。そして今年4月、日本建設業団体連合会、日本土木工業協会、建築業協会の三団体が合併。名実ともに日本の建設業界を代表し、先導する「日本建設業連合会」が誕生した。
しかし、この大きな潮流の中にあって、新日建連に移行してもなお変わらず、脈々と受け継がれた活動がある。国土交通省との共催で、全国九地区にわたり各地方整備局等と忌憚のない意見を交わす「公共工事の諸課題に関する意見交換会」だ。過去16回、土工協が事業の柱に位置付けて、展開してきた取り組みである。
ここ数年は、受注者側が適正な利潤を確保できる仕事環境の実現に向けて、入札契約制度等の議論を深めてきた。今回の合併に伴い、新日建連がBCS賞とともに、意見交換会も承継。業界を先導する団体の提言力・発信力を発揮する上で、この意見交換会が一層有益なステージとなることに注目が集まっていた。
そうしたさ中、日本を一気に不安感で包み込む出来事が発生する。3月11日の「東日本大震災」。東北地方や関東地方等に未曽有の被害をもたらし、日本国民は千年に一度とも言われる自然災害の猛威と恐怖を目の当たりにした。
その「復旧・復興」への協力・貢献こそが建設業に課せられた使命の一つであり、当面、日建連が対応すべきことでもある。依然、震災に対する社会の関心も高い。このため17回目の今年、「社会資本整備の推進」をテーマの一つに位置付けて、議論を繰り広げることとなる。
これまでの業界にとって、この議論は、社会からの風当たりが強いこともあり、どこか萎縮し、その主張に消極的だった。建設業に携わる者がその必要性を訴えようとしても、「我田引水」、仕事が欲しいだけだと、うがった見方をされてしまうからだ。しかし今回は、意見交換会皮切りの関西地区で中村満義土木本部長が、社会資本整備の重要性を「真正面から社会に主張していく」ことを表明。社会に道義を昂揚しようと正々堂々、真正面からの議論に臨んだ。
特に、中村本部長が「命や失った生活はお金で買えない」ことを訴えたように、一度、被災したならば復旧・復興にかかるコストや時間は莫大だ。くしくも、日建連の野村哲也会長が団体発足時、建設産業の大きな役割が「命を守ること」であると強調したのと同じ思いである。予防的対策としての社会資本整備がいかに大切か、また社会資本整備が果たす役割の大きさを広報する必要性も強く訴えた。
震災を境に、建設業の使命感に強く燃える人は多かったのだろう。こうした日建連側の意見に発注者側も呼応。各局長からは、今回の震災を受けて「これまで進めてきた社会資本整備」や「信頼性の高い道路ネットワークの整備」「阪神・淡路大震災以降進めてきた耐震化」は間違っていなかったなどの認識が示された。また「安全安心の確保、地域経済の発展のため、この震災を教訓」に取り組みたいなど、前向きな意見も寄せられている。
そのような発注者の姿勢に、意見交換会担当の大田弘副本部長もエールを送る。時には、公共事業を非常階段にたとえて「非常階段を年に何回使っているのか聞かれ、一度も使っていませんと回答した場合、そんなものはやめなさいと言う社長が出現しかねない中で、本当に悔しい思いをしながら国土を守っていただいている」と、発注者の労をねぎらった。
また、事業の「視える化」や「語り部」も提案。命を救う緊急道路など役割を可視化し、なぜこの社会資本を整備しているのかも語り継いで説明していく必要性を強調した。こうした、真正面からの社会資本整備の議論で活発な会合となり、受発注者双方の共通認識が深まった意味からも成果は大きい。この震災の教訓を後世にも伝え「市民の目線に立った主張」が今後、展開されていくことが期待される。
意見交換会で、もう一つのテーマとして取り上げられたのが「入札契約制度の改善」。これまでも議論を重ねてきたテーマだ。村田曄昭公共工事委員長、木村洋行契約制度研究委員長、金井誠積算・資材委員長、柿谷達雄海洋開発委員長の四委員長が、それぞれ役割を分担して発言。直接、発注者名をあげて、改善を促した。「総合評価の評価点にもっと差がつくように工夫してほしい」、予定価格を事前公表する問題においては、発注者による「価格誘導である」と厳しく迫り、事後公表への切り替えを要望している。
これまでもこうした要望は、業者の「自助努力」の前提のもとに、さまざまな機会を通じて発注者に行ってきた。その積み重ねが、三度にわたる国の調査基準価格の引き上げや、事後公表に変更する地方自治体の増加など、一歩一歩ではあるが着実な改善につながっている。
さらに今回、「受注者のために」や「受発注者が協力して」という発言が、発注者側から多く聞かれ、「双務性の確保・向上」という意識も芽生え始めていた。「受発注者がともに、国民のために適正なものを納めようと同じ方向」に向かっていることに、中村本部長は手応えを感じたと言う。
支部の活性化という観点からも、今回の意見交換会は大きな役割を果たした。七地区で支部長自ら、初めて発言したからだ。低入札対策等をお願いした訳だが、裏を返せば自助努力の宣言でもある。特に中国地区では今後、支部と整備局が定期的に意見交換することを中村本部長自ら確認したほど、支部活動の活性化に対する期待は大きい。足腰となる支部の活性化は、本部活動にも必ずやプラスに働くことだろう。
今回を振り返っていると、2年前の出来事がなぜか私の脳裏に蘇った。土工協新会長として意見交換会に臨んだ中村会長(当時)との会話についての記憶だ。新会長として意見交換会をすべて終えた時の状況を、何かにたとえてほしいとお願いすると、訣別宣言やコンプライアンスの徹底等で業界の基軸を大きく変えた前会長の葉山莞児氏を持ち出し「葉山さんが蒔いた種に、私が水を撒いている所」と語ってくれた。
水を与えられた種は、2年が経過して、今や社会資本整備の真正面からの議論、入札契約制度の着実な改善、双務性の確保・向上などという芽を出して成長を続けている。その芽は三団体合併という「接ぎ木」により、三つのDNAを受け継ぎ一層強い苗となった。大変革期という厳しい環境だからこそ、より大きな成長を遂げ、様々な実を結ぶことができるはずだ。
建設業界の健全な発展、ひいては日本国の復興に向けて、新日建連に課せられた使命・役割は大きい。中村本部長が「永遠のテーマ」とたとえる「社会資本整備の着実な推進」、またその国民的議論への発展、会員各社の適正利益の確保の実現等に向けて、今後の意見交換会と産学官共同の取り組み、そして日建連の更なる「成長」を見守っていきたい。
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