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2011年9月号 【ACe建設業界】
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ACe2011年9月号>現場発見
 

[現場発見]

住商混在地域に誕生する新たなランドマーク
(仮称)表参道プロジェクト新築工事

 
 
 

2010年1月から表参道と明治通りの交差点に
新たなランドマークの建設が始まっている。
計画地は、都内でも有数の商業エリアであり、
商店街や町会など六つの会派が存立、
その裏手には閑静な住宅街も同居する。
そんな立地条件のもと、現場は24時間体制で稼働している。
建設に携わる竹中工務店・掛川伸一所長に取材した。



原宿と表参道の中心という立地の特性

表参道と明治通りの交差点越しに現場を望む(2011年7月15日撮影)。現場前の歩道は、毎日1時間で約800人が行き来する。

 この現場は、昼と夜の二体制、つまり24時間稼働している。その訳は、前面道路の使用許可が夜間のみと限られているからだ。昼間の作業は、主に鉄筋、型枠、コンクリート工事といった地下躯体を構築すると同時に、騒音の発生する鉄骨躯体のボルト締めや溶接などが行われている。「仮囲いの中と外ではまるで別世界です」と語る掛川所長。明治通りと表参道という、日本でも有数のファッションストリートを眼前にし、仮囲いのまわりには多くの人々が行き交う。そのため、工事車両が出入りする際には、ガードマンを含め最低でも五人体制で誘導を行ない、細心の注意を払っている。

 深夜11時を過ぎた頃には、道路の使用が可能となって鉄骨の搬入と建方工事が始まる。敷地の裏手には、閑静な住宅街が広がっているが、夜間の騒音対策はどのような配慮がされているのか。「住民の方に納得して頂きながら工事を進めるために、住民説明会等では夜間工事中に使用する工具を用いて実演しています」。そう語る掛川所長が最も重要だと考えていることがある。それは作業員への「指導と教育」だ。工事における騒音防止対策と並んで「大声を出さない」「資材は丁寧に扱い、投げない」といった作業員への指導を徹底している。掛川所長が自ら作業員に問いかけ、市街地での作業において必要な意識を育てている。

工事概要

計画地:東京都渋谷区神宮前 4丁目30ー3
建築主:クロス特定目的会社(プロジェクトマネージャー:東急不動産株式会社)
設計:NAP建築設計事務所+株式会社竹中工務店 東京1級建築士事務所
監理:株式会社竹中工務店 東京1級建築士事務所
施工:株式会社竹中工務店
用途:主用途 物販店舗・飲食店舗・サービス店舗 従用途 駐車場
面積:建築面積 1,662.98m2、延床面積 11,852.34m2
階数:地下2階 地上7階 塔屋2階
構造:鉄骨造 鉄骨鉄筋コンクリート造 鉄筋コンクリート造
高さ:最高高さ44.65m(表参道側30m)
工期:2010年11月12日~2012年3月29日(16.6カ月)


現場で求められる「提案力」と「実行力」

外観イメージ
資料提供:NAP建築設計事務所

  この立地条件で与えられている工期は約17カ月弱。決して長いとはいえない。工期の短縮を図るために提案されたのが「多段施工」という工法である。多段施工の作業工程はこうだ。地下掘削終了後、速やかに耐圧版を構築する。耐圧版を除く地下躯体はまだ未構築の状態で、耐圧版から本体鉄骨の建て方を開始し、一階床のみを構築する。ここまでくればタワークレーンの設置が可能となり、地上躯体工事と地下躯体工事を並行して進行することができる。

 この工法を採用することによって、工期を25%短縮し、躯体工事だけで18%、全体工事で言えば5%のコスト削減にも成功した。一つ一つの工程は、既存の工法そのものであるが、それらを臨機応変に組み替え、計画しその通りに実行していく、その「提案力」と「実行力」がうかがえる。

 もう一つ、現場の対応力が試されるのは屋上テラスの植樹工事だという。屋上テラスは、地上30mに位置し、奥行きが40mもあるため、工事の終盤に路上にクレーンを設置して一気に植樹することが不可能となっている。そのため、設備機器の設置、タワークレーンの大型機から中型機への切替え及び中型機の撤去工事、防水と植樹のためのプランター工事、トップライト工事、ウッドデッキ工事と調整しながら、10月下旬から12月中旬にかけて段階を追った工事になるという。来客に対する安全性の確保、メンテナンスの容易さも考慮しなくてはならない。完成予想パースを前に「設計者のイメージ通りにできれば最高です」と微笑む掛川所長。今から完成が楽しみだ。

地域への還元

本体鉄骨が各階床を構築しているため、仮支柱は切梁を支えるだけになっている。現在地下部分では、配筋、型枠工事が地上躯体工事と並行して行なわれている。

  「近隣住民の同意無くして仕事はできません」。そう語る掛川所長が、近隣住民の同意を得るために最初におこした行動は、工事着工に先立ち行なわれる事前説明会よりも前に、個別に近隣住民の方々に会いに行くことだった。この地域には「原宿表参道欅会」をはじめ商店街や町会など六つの会派が存立する。「大勢の人がいる場所で本音を確認することは難しい。個別に訪問すれば意見も言いやすいでしょう」。その時、近隣住民からだされた要求は、実に単純明確だった。「我々の立場にたって考えてください、それだけでした」。掛川所長は、この言葉を受けて街の歴史に着目した。この街は、明治神宮の門前町として幾多の変化を遂げてきた。街の歴史を知ることは、近隣住民が今まで経験してきた街の変化を理解することにつながると考えたからだ。そうした行動は工事を進める上で配慮するべきポイントを明確にしていった。

 その一つは、仮囲いを使って表参道のイメージを維持する試みだった。あるとき掛川所長は、近隣住民より「表参道の歴史がわかる写真を展示してはどうか」という提案を受けた。写真は、すべて「原宿表参道欅会」から提供してもらい表参道の歴史がわかるものを中心に15カ月間の間に30枚程展示された。






細やかな配慮で現場を先導する

深夜11時を過ぎた頃から本格的に、鉄骨の搬入と建方工事が始まる。
深夜にも関わらず、人通りは絶えない。

  「仕事でおもしろいのは、工事の工程が想定通りに進んで行くことです。時にはずれ込むこともありますが、その修正方法を考え、調整するのも一つの醍醐味です」。そう語る掛川所長の感心すべき点は、「様々な配慮」を何の苦もなくやってのけることだ。前回携わった物件は、近隣住民はいない郊外に位置する現場だった。しかし、東京ドームが二つ入る規模の建物の物量は桁違いに凄まじく、ほとんどの工事関係車両がその遠く離れた住宅街を通り抜けて現場にやってくることに着目する。数百人いる作業員の車が、朝の通勤渋滞を誘発しないように始業を通常より1時間早め、朝礼の二部制を採用したり、1日何百台ともなる生コン車に至っては、全ては道路を通さずバージ船をチャーターして搬入したそうだ。実際に会うこともない人たちに対してなんとも配慮の仕方がきめ細かい。だからこそ、関係者が一段と多い今回の現場でも近隣の方とうまくやっていけるのだろう。

 作業所には、「汗をかく現場から知恵をだす現場に」と書かれたプレートが貼られている。これは所員が考えた言葉だ。掛川所長の細やかな配慮とその精神、そこから生まれる現場の雰囲気を象徴しているように感じた。

毎朝朝礼後に周辺地域の清掃作業が行われている。表参道側の仮囲いは、表参道の文化や情報発信の場として活用されている。


Q.あなたがこの現場で発見したことは何ですか?

株式会社竹中工務店
東京本店 作業所
作業所長 掛川伸一

A. 24時間稼働する現場では、毎日、昼間と夜間の作業間調整ならびに引き継ぎ作業があります。その際は、常に綿密なやりとりを心掛けており、現場は順調に進行しています。

市街地における建設工事には、騒音、振動、環境問題等、対応を誤ると近隣トラブルに発展しかねない要素がたくさんあります。特にこの作業所では近隣の方も含めて多くの関係者がいます。そうした環境の中で、近隣の方々と良好な関係を維持することの重要性を再認識しています。

当作業所の特色として女性社員が多く働いておりますが、女性らしいきめ細かい配慮が近隣との融和にも貢献しています。地域と調和を図ったものでなければ喜ばれる建物にはならないと強く信じ、日々の業務に取り組んでいます。


 
   
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